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サナエノミクスで株高・円安!3つの柱と関連銘柄、高市トレードと株式市場への影響を解説

にしけい担当:にしけい

最終更新日:2025年10月27日

お知らせ
(2025年10月21日追記)高市早苗氏が第104代首相に指名されました。女性の首相就任は初めてのことです。21日夜に高市内閣が発足します。

2025年10月4日(土)に高市早苗氏が自民党新総裁に選出され、10月21日(火)に初の女性首相に就任しました。高市氏の政策は「サナエノミクス」と呼ばれ、「財政拡張」と「金融緩和」を掲げている点が特徴です。このため、週明け6日(月)の市場は「株高・円安」で反応する“高市トレード”となりました。

このコラムでは、サナエノミクスとは何かを具体的に説明したのち、株式市場への影響と関連株を紹介します。

高市新総裁誕生と市場の反応

高市新総裁の誕生によって市場がどう反応したか、改めて整理します。冒頭でも紹介したように、市場は「株高・円安」で反応しました。

株高になった理由は、サナエノミクスで掲げられている「財政拡張」によって経済成長が促進され、さらに「金融緩和」による株高が予想されるためです。

<日経平均株価の推移>

日経平均株価の推移

(出典:SBI証券

円安になった理由は、「財政拡張」によって国債発行が増えると、市中に出回る日本円の量が増えてしまい、通貨の価値が薄れてしまうためです。

<ドル円の推移>

ドル円の推移

(出典:SBI証券

それでは、サナエノミクスで掲げられている政策として、具体的にどのようなものがあるかを紹介します。

サナエノミクスとは

サナエノミクスとは、自民党新総裁に選出された高市早苗氏の政策を指した言葉です。サナエノミクスには、同じ派閥である安倍元首相が展開したアベノミクスの3本の矢になぞらえて、「3つの柱」があります。

それぞれ見ていきましょう。

①国家の危機管理と成長の重視

1つ目は「国家の危機管理と成長の重視」です。サナエノミクスで最優先課題に位置付けられています。具体的には、国の安全を守るために必要な分野に、政府が積極的にお金を投資していく政策です。短期的な経済効果を狙うのではなく、長期的な視点で国家の安全保障を強化することが目的となります。

投資対象となる分野を表に整理しました。

投資対象となる分野
分野 具体的な投資内容
防衛 防衛費をGDP(国内総生産)の2%まで増やす。具体的には、遠くから攻撃できる長射程ミサイルや、次世代の戦闘機の開発などに注力する。
宇宙 安全保障の観点から、小型衛星のネットワークを作ったり、宇宙ゴミ(デブリ)を取り除く技術の実用化を進めたりする。
サイバーセキュリティ インターネット上の攻撃から国を守るため、量子暗号通信という最先端の暗号技術や、電気・水道・交通など重要インフラを守る体制を強化する。
先端技術 将来の国際競争力を左右する技術として、半導体やAI(人工知能)、量子コンピューター、核融合、バイオテクノロジーなどの研究開発に投資する。
サプライチェーン※1強靭化 バッテリーや重要な鉱物資源を国内で生産できるようにしたり、食料の安全保障のために国内の農業を支援したりする。

※1 サプライチェーンとは、製品が作られて消費者に届くまでの一連の流れを指します。

②拡張的な財政運営

2つ目は「拡張的な財政運営」です。国民の生活を安定させながら、将来の経済成長の基盤を作ることが目的となります。

この政策で最も重視されているのが「物価高(インフレ)への対応」です。具体的な対策を表に整理しました。

物価高への具体的な対策
対策 詳細
ガソリン・軽油の暫定税率廃止 燃料費の負担を軽くする
中小企業や農林水産業への支援強化 コスト高に苦しむ企業や農家に、補助金や交付金を増やす
医療・介護従事者の賃上げ 診療報酬や介護報酬を引き上げて、医療・介護の現場で働く人たちの給料アップにつなげる

表に整理した対策を実行することで、物価高による国民負担が和らぐと考えられます。しかし、対策の実行には財源が必要です。高市氏は「国債発行を躊躇しない」ことを示しており、国債発行が増える可能性があるでしょう。

ただし、「財政規律※2を無視するわけではない」とも明言しています。一見すると相反することのように感じますが、「ワイズスペンディング(賢い支出)」という考え方に基づき、下記の好循環を生み出すことで、国の借金(純債務残高)のGDP比を少しずつ減らす方針も掲げています。

※2 財政規律とは、税収など政府の支出に見合った支出に留め、財政の持続性を確保することです。

ワイズスペンディングと好循環

  1. 成長が見込める分野に戦略的に投資する
  2. 経済が活性化する
  3. 税収が自然に増える
  4. 結果として財政も健全化する

高市氏が描くように、経済成長が実現し生産効率が高まれば、財政の健全化が実現するでしょう。加えて生産コストの低下、モノの供給量の増加によって、インフレ率を押し下げる効果も期待できます。しかしながら、拡張的な財政運営は「短期的には」インフレを加速させるおそれがあるので要注意です。

③政府が責任を持つ金融政策

3つ目は「政府が責任を持つ金融政策」です。これは高市氏の特徴的な考え方のひとつで、文字どおり金融政策の最終的な責任を政府が持つべきと考えています。

基本的に、金融政策は中央銀行である日本銀行(以下、日銀)が独立して決めるものです。日銀は現在、金融政策の正常化を進めており、利上げを検討しているとみられます。

このような中、高市氏は日銀の利上げに対して否定的な立場です。このことを理解するためには、インフレの種類と性質について理解を深める必要があります。

インフレの種類と性質
種類 性質
コストプッシュ・インフレ 原材料費や輸入価格の上昇によって引き起こされるインフレ。給料は上がらないのに物価だけが上がるため、悪いインフレと言われる
デマンドプル・インフレ 経済が活発になり、需要が増えることで起こるインフレ。給料が上がるので、良いインフレと言われる

現在の日本で進んでいるインフレは「コストプッシュ・インフレ(悪いインフレ)」と考えられます。一方、高市氏が目指しているのは「デマンドプル・インフレ(良いインフレ)」です。良いインフレが進む状況を作り出すためには、低金利を維持し企業の投資を促進する必要があると考えているのです。

アベノミクスとの比較

サナエノミクスの「3つの柱」とアベノミクスの「3本の矢」を比較しました。

サナエノミクスとアベノミクスの比較
項目 サナエノミクス「3つの柱」 アベノミクス「3本の矢」
成長 国家の危機管理と成長の重視 民間投資を喚起する成長戦略
財政 拡張的な財政運営
(消費税減税を排除せず、国債発行も躊躇しない)
機動的な財政出動
金融 政府が責任を持つ金融政策 大胆な金融緩和

サナエノミクスは、アベノミクスと同じように、「成長戦略・財政出動・金融緩和」という枠組みで構成されています。アベノミクスの進化形として考えるとよいでしょう。

一方、サナエノミクスとアベノミクスの違いは、政策の「目的」に現れています。

サナエノミクスとアベノミクスの目的
項目 サナエノミクス アベノミクス
目的 経済力を強化することで
外交力や防衛力を高める
長期デフレから脱却する

アベノミクスは「長期デフレから脱却する」ことを目指していましたが、サナエノミクスは「経済力を強化することで外交力や防衛力を高める」ことを目指しているのです。

株式市場への影響

サナエノミクスは「株式市場全体を押し上げる効果を持っている」と言えます。ただし、国債発行の状況次第では株式市場全体が下落するリスクを持っています。

株式市場全体を押し上げる効果

サナエノミクスが株式市場全体を押し上げると考えられる理由は、次の2点です。

株式市場全体を押し上げる理由

  1. 拡張的な財政運営による経済成長期待
  2. 金融緩和の継続期待

①拡張的な財政運営による経済成長期待

「①拡張的な財政運営による経済成長期待」について説明します。具体的な方針として「消費税減税を排除しない」ことと「国債発行を躊躇しない」ことが掲げられており、どちらも経済成長にプラスの影響をもたらすと予想できます。

消費税減税がおこなわれた場合、消費者の可処分所得が増えて消費が活発になることが予想されるため、日本経済に追い風です。

国債発行の増加によって得た資金は、防衛やサイバーセキュリティなどの分野に投資されると考えられます。先ほど説明したように、こういった分野への投資は経済成長を促すだけでなく、日本の国力を強くする効果があるでしょう。長期的な経済成長や国力の増加は株式市場にプラスに働くと予想できます。

②金融緩和の継続期待

「②金融緩和の継続期待」について説明します。高市氏は利上げに対して慎重な姿勢を示しており、金融緩和状態が続くことが期待されています。

金融緩和が続いた場合、金利が低く抑えられるので、企業がお金を借りやすい状態が維持されます。企業が借りたお金が成長投資に回されれば、生産性が高まり業績の改善が期待できるため、株価の上昇要因となるのです。

また、金融緩和を維持することで円安の状態が続くと考えられます。円安は輸出を増やす効果があるため、輸出企業が多い日本にとっては追い風と言えるのです。

以上の理由から、サナエノミクスによる拡張的な財政運営によって、基本的には株式市場に対して上昇圧力が加わります。

株式市場全体が下落するリスク

ただし、国債の発行量が増加することにより、短期的には株式市場にマイナスの影響が及ぶかもしれません。国債の発行によって市中に流れ込む通貨の量が増えると、通貨の価値が薄れてしまい、物価を押し上げるためです。

このような経路の物価上昇は、高市氏が是正したいと考えている「コストプッシュ・インフレ」となります。賃金が上がらず経済を冷やすことになりかねず、市場が先行きに不安を感じて株価が下がる展開が予想できるでしょう。

また、国債の大量発行は国の財政を悪化させ、日本国債の信用度が低下するおそれがあります。日本国債が売られると長期金利が上昇し、株価に下落圧力をかける可能性があるのです。

このように、サナエノミクスは株式市場全体を押し上げる効果がある一方、国の財政状況次第では株式市場全体を押し下げる危険性もはらんだ政策と言えます。

サナエノミクス関連株

サナエノミクス関連株として、安全保障と先端技術、AI(人工知能)、半導体の4つの分野から、代表的な銘柄を2つずつ紹介します。

サナエノミクス関連株
テーマ 銘柄名 事業内容
安全保障 三菱重工業
(7011)
重工メーカー首位。防衛省の調達額のトップ。護衛艦や戦車など多数を提供する。戦闘機やペトリオット(地対空誘導弾システム)などをライセンス生産。防衛省向けの売上比率は14%。日英伊で次期戦闘機を共同開発中。豪州から護衛艦を新規受注したことが話題を呼んでいる。
日本製鋼所
(5631)
産業機械・鉄鋼メーカー。防衛関連機器の割合は1割強。りゅう弾砲、装甲車、戦車の主砲などを納入している。レールガン(電力で弾丸を発射する次世代砲)の開発にも取り組む。
先端技術 浜松ホトニクス
(6965)
電気機器メーカー。光技術を使った機器やサービスの提供が主力事業。医療や半導体向けに強み。燃料にレーザーを照射して核融合反応を起こす大出力レーザ機器の開発が進展している。
アストロスケールHD
(186A)
宇宙ベンチャー。宇宙ゴミ(スペースデブリ)除去技術の開発・実証に取り組んでいる。故障機や物体の観測・点検もおこなう。YouTubeの『高市早苗チャンネル』で、同社のデブリ回収事業が紹介された。
AI
(人工知能)
さくらインターネット
(3778)
インターネットサービスとデータセンターの運営をおこなう。AI向けのデータセンターの強化を目的とする公募増資※2を発表した。増資額は発行済株式の約1割相当を予定。
PKSHA Technology
(3993)
大学発AIベンチャー。2017年上場。顧客数は約2,400社。マイクロソフト(MSFT)の支援で大規模言語モデルの開発に取り組む。コールセンター向けの自動応答などに活用する。
半導体 アドバンテスト
(6857)
半導体検査装置メーカー最大手。検査装置世界シェア1位を米テラダイン社と争う。DRAMなどの高速デバイス、コンピューティングデバイス、通信用プロセッサ向けが強い。2023年10月に1株→4株の株式分割をおこなう。
ソニーグループ
(6758)
世界的な総合電機メーカー。ゲーム、音楽、映画に強み。半導体メーカー国内3位。スマホカメラなどに搭載するイメージセンサーで世界トップシェア。台湾の半導体受託生産大手TSMCと組み、デンソーの出資と政府の補助金を得て熊本にロジック半導体の新工場を建設。

※2 公募増資とは、株式を新しく発行し、その株式の買い手を公に募集することです。

まとめ

サナエノミクスは「財政拡張」と「金融緩和」を軸に、防衛や先端技術への投資を通じて、経済力と国力の強化を目指す政策です。基本的には株高・円安が期待されますが、国債の大量発行による財政規律の悪化や、コストプッシュ・インフレが進むリスクもあります。

投資の恩恵を受ける関連株は、将来的な業績成長が期待できます。ただし、投資する際には、株式市場全体が下落する可能性も頭の中に入れておきましょう。

にしけい

この記事の執筆者

にしけい

当サイトで上場企業のIR取材記事やコラムを執筆しています。企業分析と経済分析が趣味で、BSテレビ東京『マネーのまなび』や日経ヴェリタス、日経マネー等への掲載歴があります。日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)、簿記2級、FP2級の資格を保有しています。

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