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キューブの取締役に突撃取材!ラグジュアリーゴルフウェアの「MARK & LONA」を立ち上げた背景や今後の展開とは?

にしけい担当:にしけい

最終更新日:2024年1月4日

キューブ株式会社 小澤取締役

(キューブ株式会社 小澤取締役)

やさしい株のはじめ方編集部(にしけい)が、ゴルフウェアを中心とした衣服・雑貨の企画・製造・販売をおこなっているキューブ(7112)に突撃取材しました!

今回は、キューブの小澤取締役に同社の主要な取扱ブランドである「MARK & LONA(マーク&ロナ)」を立ち上げた背景今後の展開などをお聞きしました。

この記事では、株初心者の方がキューブについて理解を深められるよう、わかりやすい言葉でていねいに解説します。ぜひ最後まで読んでくださいね。

事業内容をわかりやすく解説

キューブは、「MARK & LONA」というゴルフアパレルブランドを展開するアパレル会社です。“ゴルフに、自由を”をミッションに掲げ、「スカル(骸骨)」や「カモフラ(迷彩柄)」を使ったおしゃれなゴルフウェアやバッグなどを販売しています。

<MARK & LONAの商品イメージ>

MARK&LONAの商品イメージ

(出典:キューブ 2023年12月期 第3四半期決算説明補足資料[PDF])

主力ブランドは「MARK & LONA」で、売上高の約9割以上を占めています。「ラグジュアリーゴルフアパレルブランド」という位置づけで、富裕層をターゲットにした高価格帯のゴルフウェアブランドです。

このほかにも、「HORN GARMENT(ホーンガーメント)」や「Gravis golf(グラビスゴルフ)」といったブランドも取り扱っています。

ビジネスモデル

キューブのビジネスモデルをかんたんに説明します。まず、キューブは自社で抱えているデータを基に商品を企画し、国内外の生産先に生産指示を出します。その後、生産先から商品を仕入れ、国内外の百貨店やオンラインストア、卸などを通じて顧客(エンドユーザー)に販売する仕組みです。

<事業系統図>

事業系統図

(出典:キューブ 2022年12月期有価証券報告書[PDF])

販売チャネルは6つ

販売チャネルは大きく6つに分けられます。「B2C」チャネルが3つ、「B2B」チャネルが3つという構成です。

販売チャネル
B2C/B2B 販売チャネル チャネルの説明
B2C 国内リテール 日本国内の商業施設や百貨店で販売
国内EC 自社で運営する国内向けオンラインストアやZOZOTOWNで販売
海外EC 自社で運営する海外向けオンラインストアで販売
B2B 国内卸 日本国内のセレクトショップなどに卸売
韓国卸 韓国の総代理店に卸売
海外卸 海外のセレクトショップや高級ブティックなどに卸売

指さしにしけい

日本国内では、GINZA SIXや表参道ヒルズ、阪急うめだ本店などの百貨店に入っています。ゴルフ好きの方であれば、一度は見たことがあるのではないでしょうか?

それでは、販売チャネルごとの売上を見ていきましょう。

販売チャネル別売上

販売チャネル別売上を見ると、最も売上規模が大きいのは「韓国卸(薄い紫色)」、次いで大きいのが「国内リテール(濃い青色)」です。

<販売チャネル別売上推移 >

販売チャネル別売上推移

(出典:キューブ 2023年12月期 第3四半期決算説明補足資料[PDF])

韓国卸の売上が大きく減っているのが気になりますが、これは新型コロナ禍をきっかけとしたゴルフブームが2023年に入り落ち着いたためです。

2020年の新型コロナのパンデミック(大流行)以降、ゴルフは3密を避けて比較的安全にスポーツを楽しめることから、世界的に市場が活性化しました。中でも、韓国はゴルフブームの過熱が顕著であったため、ゴルフブームが落ち着いた後の売上の落ち込みが激しかったと考えられます。

やったーにしけい

キューブの事業内容をかんたんに説明しました。続いて、主力ブランドである「MARK & LONA」の設立秘話やブランディングなどをご紹介しますね!

MARK & LONA とは?

キューブの主力ブランド「MARK & LONA」は、2008年にアメリカ・ロサンゼルスで誕生しました。従来のゴルフウェアにはないスカルやカモフラを使った、デザイン性の高いゴルフウェアになっています。

今回は、以下の4つのポイントでMARK & LONAを深掘りしていきます。今後の成長シナリオを考える材料になりますし、何よりおもしろい話が盛りだくさんなので、ぜひ読んでくださいね!

顧客の特徴

MARK & LONAのターゲット顧客は、国内外の富裕層です。スカルやカモフラといった、従来のゴルフウェアにはないデザインを取り入れていることもあり、「他人と被らないゴルフウェアを着たい」と考える富裕層ゴルファーの支持を集めています。

中には、シーズンごとにほぼ全てのアイテムを購入される方もいます。

キューブ 小澤取締役小澤取締役

びっくりにしけい

全アイテム購入とは…驚きました!私もいつか「ここにあるものすべてください」と言ってみたいものです!

また、MARK & LONAの顧客は、競合ブランドの「PARLY GATES(パーリーゲイツ)」からの乗り換えが多くなっています。その最大の要因は、キューブが一番大事にしている“ブランド価値”です。

キューブが大事にしているブランド価値とは?

キューブにとってのブランド価値とは“希少性”です。同社のメインターゲットである富裕層の方は、「ゴルフ場で他のプレーヤーと被らない」ことを求めています。

このため、毎年春夏シーズンと秋冬シーズンの2回、必ず新しいテーマを設定し、各シーズンごとにデザインを一新して商品を投入しています。例えば、2023年は以下のようなテーマで各シーズン商品を投入しています

2023年のテーマ
シーズン テーマ テーマ概要
2023SS※1 El Dorado
(エルドラード)
16世紀に埋蔵された宝を求めて探検家たちが探し回った伝説の地「黄金郷」をテーマに、中世風のアートやモチーフなどを随所に使用。
2023AW※2 Hello Classic
(ハロークラシック)
伝統的な王朝柄のモチーフや千鳥格子、ピンストライプなど定番のクラシックデザインを使用。

※1 SSとは、「Spring & Summer」の略です。「春夏シーズン」を表します。
※2 AWとは、「Autumn & Winter」の略です。「秋冬シーズン」を指します。

MARK & LONAでは、商品のデザインをシーズンごとに大幅に変えることにより、顧客を飽きさせない工夫をしています。もちろん、デザインだけでなく機能性も高めています。

キューブ 小澤取締役小澤取締役

実際に、2023SSと2023AWのキービジュアルを見てみましょう。まずは、2023SSの画像です。黄金郷がテーマになっているだけあり、きらびやかなデザインですね。

<2023SSのキービジュアル>

2023SSのキービジュアル

(出典:MARK & LONA 2023 spring & summer collection

一方、2023AWはクラシックデザインを使っており、レトロさと高級感を感じます。

<2023AWのキービジュアル>

2023AWのキービジュアル

(出典:MARK & LONA公式ホームページ

ゴルフウェアといえば、多くの方が「落ち着いた服」というイメージを持っているのではないでしょうか。MARK & LONAは、そういった常識を良い意味で覆してくれる、革新的なブランドです。この点が、希少性を大切にする富裕層の方々に刺さっていると考えられます。

指さしにしけい

それでは、ゴルフウェアに革命をもたらしたMARK & LONAが、どのようにして生まれたのかを見ていきましょう!

ブランド設立秘話

MARK & LONAのルーツは、1994年までさかのぼります。同年、キューブの松村社長がファッションブランドの輸入代理事業とブランドコンサルティング事業を手掛ける会社を立ち上げました。

松村社長は、これらの事業の主戦場となる海外を飛び回りながら経験を積みます。創業当時、「高級腕時計」や「高級輸入車」といった新しいトレンドが流行する中、そのトレンドにマッチしたスポーツとして富裕層の趣味である「ゴルフ」に注目しました。

当時のゴルフウェアは機能性が最も重視されており、デザイン性の高いゴルフウェアは存在していなかったのです。そこで、富裕層が着るオシャレな「ハイエンドファッション」を融合させようと思いつき、今までにないラグジュアリーゴルフというコンセプトの下、MARK & LONAを立ち上げました。

はてなにしけい

松村社長が元々手掛けていた輸入代理事業やブランドコンサルティング事業は、現在のキューブの業務のどのような部分に活かされているのでしょうか?

当時、スコットランドの老舗ゴルフウェアブランド「Lyle&Scott(ライルアンドスコット)」や大手スポーツブランドのコンサルティングに関わっていました。その経験が、高級ゴルフウェアの製造・販売に活きています。

Lyle&Scottを日本市場に展開していく際のコンサルティングをする過程で、デザイン性を高めることによって日本の消費者から受け入れてもらえるというニーズを捉えたこと等が、MARK & LONAなどのデザイン性の優れたブランドを作っていくきっかけの1つになっています。

キューブ 小澤取締役小澤取締役

スカルとカモフラをデザインに使用

デザイン性の高いゴルフウェアを作るにあたり、松村社長が“自由の象徴”と位置づける「スカル(骸骨)」を使い、一目でブランドがわかるようなアイコンを採り入れました。

<スカルを使用したゴルフウェアの例>

スカルを使用したゴルフウェアの例

(出典:MARK & LONA オンラインストア

また、ゴルフは紳士のスポーツとしてルールや格好、マナーがきびしいスポーツですが、これまでタブーとされてきた「カモフラ(迷彩柄)」も使っています(キューブはカモフラの意匠権も取得)。これまでカモフラをゴルフウェアに使うブランドはなかったことから、MARK & LONAは革新的なファッションブランドと言えるでしょう。

<カモフラを使用したゴルフウェアの例>

カモフラを使用したゴルフウェアの例

(出典:MARK & LONA オンラインストア

キューブは創業以来15年間、「今までにないデザインを積極的に採り入れる」というコンセプトをベースに、他ブランドとの差別化を図ることに注力しています。

デザイン性に優れたゴルフウェアが存在しなかった理由

MARK & LONAが登場するまで、デザイン性に優れたゴルフウェアが存在しなかった理由は、「デザイン性の高いゴルフウェアを求める市場が存在しなかったため」だと考えられます。

元々、ゴルフウェアに求められていたものは機能性でした。さらに、MARK & LONAが登場した2008年当時、ゴルフ場での服装やマナーについてきびしい規定が存在し、奇抜なファッションを受け入れる業界ではなかったのです。

このため、従来から存在しているゴルフウェアブランドにとって、デザイン性の高いゴルフウェアという新しい需要を発掘し、顧客に提案するメリットはありませんでした。

従来からあるゴルフウェアブランドは、コンプライアンスを遵守するという観点からも、奇抜なデザインを使ったゴルフウェアの提案はむずかしかったと考えられます。

キューブ 小澤取締役小澤取締役

ゴルフ業界の文化やルールが変化

以前は服装のルールがきびしかったゴルフ業界ですが、最近はルールが緩和されてきています。この背景には、バブル崩壊後に起きた「若者のゴルフ離れ」が影響しているようです。

若者のゴルフ離れにより、ゴルフ人口は右肩下がりで減っていきました。ゴルフ場は集客しなければビジネスが成り立たないため、少しでも多くの人にゴルフ場へ足を運んでもらうため、ルールを緩和していきました。

このような市場環境の下、キューブは他のブランドにはない、スカルやカモフラをあしらったデザイン性の高いゴルフウェアを提案していきます。革新的な提案が富裕層の方々に受け入れられ、MARK & LONAを着てゴルフ場に行く方が増えていきました。

ゴルフ場側も、MARK & LONAを着た富裕層の方々の声に耳を傾け、ゴルフ場での服装をはじめとしたルールや価値観が少しずつ変わっていったようです。

指さしにしけい

まさにゴルフウェア業界の革命児ですね!

ありがとうございます。ただし、我々は業界の慣習を打ち破ることだけにフォーカスしていたわけではありません。

我々を支持してくださるお客様に喜んでいただける商品を提供することに注力してきました。その延長線上で業界ルールを良い意味で打破するアクションへとつながっていったのではないでしょうか。

キューブ 小澤取締役小澤取締役

実現したい世界観

キューブは、「ゴルフに、自由を」をというミッションの実現を目指しています。

これは決して従来のゴルフに対するアンチテーゼ(反対の主張)として提案しているものではありません。キューブがクリエイティブな力を発揮することで、業界に多様性をもたらし、ゴルフをファッショナブルなスポーツとして自由に楽しんでもらいたいという思いが根底にあります。

MARK & LONAというブランドを通じ、富裕層の優雅なライフスタイルをともにするパートナーでありたいとも考えています!

キューブ 小澤取締役小澤取締役

ブランディングの方法

キューブは、従来のゴルフウェアの概念を変える革新的なデザインでコアファンを獲得し、口コミも活用しながらブランド認知を高めていく戦略をとっています。

MARK & LONAは元々、アメリカ・ロサンゼルス発のゴルフウェアブランドとして日本国内で売り出されました。

<ロサンゼルスでのコレクション発表の様子>

ロサンゼルスでのコレクション発表の様子

(出典:MARK & LONA ABOUT US

MARK & LONAを立ち上げる2年前の2006年に、アメリカ西海岸でHORN GARMENTというサーフブランドを立ち上げ、松村社長がデザインワークで西海岸を訪れていたことが、ロサンゼルス発のブランドになった経緯になります。

当時、松村社長はアメリカでラグジュアリー向けのゴルフブランドを作ろうと考えており、同氏がアメリカで考案したスカルを冠したブランドを展開する計画でした。

その計画自体は頓挫しましたが、ラグジュアリーゴルフというコンセプト自体は、日本や韓国など一定の需要が見込めるマーケットであれば受け入れられると考えたのです。そこで、アメリカで作られたブランドを日本で展開することになりました。

ひらめきにしけい

個人的な見解ですが、「アメリカ発」というプロモーションは、日本人に刺さる気がします!

はい。最初にローンチする(売り出す)ときの1つのポイントになったかと思います。「アメリカ発のラグジュアリーゴルフ」というコンセプトを打ち出すことで、感度の高い富裕層の方々を惹きつけることができました。

キューブ 小澤取締役小澤取締役

実際に、キューブは日本でMARK & LONAをブランド展開する際、当時銀座でセレクトショップを展開していた「ルイ・ヴィトン」の店舗でローンチしました。これにより、「アメリカ発のラグジュアリーゴルフブランドが日本に上陸した」といったような口コミが広がり、雑誌にも取り上げられたそうです。

最初の1年間は派手なマーケティングをおこなわず、「知る人ぞ知るブランド」として感度の高い方を中心に認知度が高まり、1年後には表参道ヒルズに店舗を出店することになりました。

適度に枯渇感を醸成

主な顧客である富裕層の方々は「他人と被らない」ことを重要視するため、ブランド立ち上げ以来、蓄積したデータを基に“売れる分だけ作る”ことを意識しています。このため「買おうか迷っているうちに売り切れてしまった」という体験をする顧客もいるでしょう。

適度に「枯渇感」を醸成しつつブランドを定着させていることも、キューブのブランディング手法の特徴の1つとして挙げられます。

また、売れる分だけ作るため、在庫回転率(棚卸資産回転率)が高く、定価販売で売り切れるため売上総利益率も高いという財務面の特徴も有しています。

<在庫消化率と高利益率>

在庫消化率と高利益率

(出典:キューブ 2022年12月期 決算報告並びに成長戦略[PDF])

市場の状況

ここからはキューブを取り巻く市場環境を、ゴルフ市場とラグジュアリー市場に分けて見ていきましょう。

キューブを取り巻く市場

ゴルフ市場

ゴルフ市場は、国内と海外に分けて説明しますね。

国内ゴルフ市場

国内ゴルフ市場は緩やかな右肩下がりで縮小してきた市場です。しかし、新型コロナ禍を契機に、“三密を避けて楽しめるスポーツ”として若者がゴルフを楽しむようになり、ゴルフ市場が拡大しました。

実際に、キューブの決算説明資料に掲載されている「国内ゴルフ用品・ウェアの市場規模(下の棒グラフ)」を見ると、2020年には約1,090億円だった市場規模が、2021年には約1,200億円に拡大するとの予測が出ています。最新の市場規模はわかりませんが、新型コロナ禍が市場規模拡大を後押ししたと考えられますね。

<国内ゴルフ用品・ウェア市場規模推移>

国内ゴルフ用品・ウェア市場規模推移

(出典:キューブ 2022年12月期 決算報告並びに成長戦略[PDF])

ただし、2023年はコロナが5類指定されたことなどにより、ゴルフ以外のスポーツやエンタメ需要も回復しており、コロナ前と比べるとゴルフ人気の高まりは大分落ち着いてきている印象です。マーケット全体は昨対比で見ると落ち込んでいます。

海外ゴルフ市場

海外市場もコロナをきっかけとしてゴルフ人気が急速に高まっている状況です。矢野経済研究所によると、コロナ前の2019年とコロナ禍の2022年を比較すると、世界のゴルフ用品・ウェア市場は30~40%程度拡大しています。

<グローバルゴルフ用品・ウェア市場規模推移>

グローバルゴルフ用品・ウェア市場規模推移

(出典:キューブ 2022年12月期 決算報告並びに成長戦略[PDF])

全体的にゴルフ人口は増えています。新興国、特にアジアやASEANといった地域は、これからますます発展し、富裕層も大幅に増え、ゴルフ場も整っていくでしょう。海外市場は緩やかながらも拡大していくと予想できます。

ラグジュアリー市場

ラグジュアリー市場は、過去数十年単位で見ても右肩上がりのマーケットです。「LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン」など、ラグジュアリーブランドが牽引する形で市場規模が拡大しています。

<ラグジュアリー市場>

ラグジュアリー市場

(出典:キューブ 2022年12月期 決算報告並びに成長戦略[PDF])

コロナの感染が広がりはじめた2020年だけは、コロナ前と比べてマーケット全体が大幅に落ち込みました。しかしながら、2021年以降はコロナ前を大きく上回り、右肩上がりに成長しているマーケットになります。今後も国内外問わずラグジュアリー市場は拡大を続けると予想されています。

また、全世界のラグジュアリー市場のマーケットサイズは約46兆円、日本国内は3兆円と試算されています。

<マーケットサイズ>

マーケットサイズ

(出典:キューブ 2022年12月期 決算報告並びに成長戦略[PDF])

キューブはグローバルラグジュアリー市場を“目指すべき市場”に据えており、富裕層のライフスタイルに向けた高価格商品を提案し、顧客獲得を進めていく方針です。

決算の注目ポイント

キューブの決算をチェックする際の注目ポイントは、以下の5つです。

①海外売上高の金額・比率

キューブは「海外展開」に重点を置いています(詳しくは「今後の経営戦略」で説明します)。このため、決算をチェックする際には「海外売上高の金額」と「海外売上高比率」の2つに注目してください。いずれの指標も、決算説明資料の「決算サマリー」の中で開示されています。

<海外売上高比率>

海外売上高比率

(出典:キューブ 2023年12月期 第3四半期決算説明補足資料[PDF])

2023年12月期 第3四半期の海外売上高は約15億円、海外売上比率は39.5%となっています。前年と比べて海外売上高が減っているのは、新型コロナ禍のゴルフブームが2023年に入り落ち着いたためと考えられます。

なお、決算説明資料の中には「販売チャネル別売上推移」も開示されています。韓国卸と海外卸、海外ECの3つのチャネルの売上高を確認できるので、細かく調べたい方は見てみてくださいね。

<販売チャネル別売上推移 >

販売チャネル別売上推移

(出典:キューブ 2023年12月期 第3四半期決算説明補足資料[PDF])

この他にも、キューブでは毎月「直営店月次売上速報」を開示しています。全体の売上高の推移や、足元の海外動向に関する情報が得られるので、こちらもチェックすると良いでしょう。

②卸・代理店の獲得状況

海外売上高の金額・比率と合わせて、「卸・代理店の獲得状況」もチェックしましょう。ここに注目する理由は、キューブでは海外展開を進めるにあたり、卸売や海外向けECでテストマーケティングをおこない、売れ行きやパートナーシップ構築の可能性をチェックしてから、代理店を通じた戦略をとっているからです。

卸先や代理店の獲得状況は、決算説明資料の「海外展開」から情報を得られます。

<海外展開 >

海外展開

(出典:キューブ 2023年12月期 第3四半期決算説明補足資料[PDF])

2023年12月期 第3四半期時点では、台湾とインドネシアで順次卸売として出荷が開始しています。このほか、中国・香港やシンガポール、タイ、ベトナム、UAEでパートナー候補と交渉を進めている状況です。今後も将来の代理店候補としてパートナーを選定していく方針なので、どの国を開拓していくか楽しみですね!

③EC化率

3つ目の注目ポイントは「EC化率」です。海外売上高比率と同様に、決算説明資料の「決算サマリー」に重要指標として掲載されています。2023年12月期 第3四半期のEC化率は22.4%です。

ECを重視している理由は、世界のトラフィックや各都市の購買動向といったデータを集められるからです。ECで得られたデータを基に分析し、出店地域の選定などに活かしています。マーケティングツールとしてもECを活用しているのです。

④将来への投資

キューブはさらなる成長を遂げるために、人件費や広告宣伝費へ投資しています。

はてなにしけい

人件費や広告宣伝費について、「売上高の何%を投資する」といった目安をお持ちでしょうか?

広告宣伝費は毎期、売上高の6~8%の水準で管理する方針を持っています。人件費については明確な基準を設けていませんが、過度に高まりすぎると経営を圧迫することになるため、適宜チェックしています。

キューブ 小澤取締役小澤取締役

⑤棚卸資産回転率

キューブの特徴として「棚卸資産回転率の高さ」が挙げられます。2022年12月時点の棚卸資産回転率は8.62回転で、類似企業でスポーツウェア大手のデサント(8114)は2.38回転、「ナノ・ユニバース」などを運営するアパレル大手のTSIホールディングス(3608)は2.82回転です。圧倒的な高さがうかがえますね。

アパレル3社 棚卸資産回転率の比較
キューブ デサント TSI HD
棚卸資産回転率※3 8.62回転 2.38回転 2.82回転

※3 棚卸資産回転率は「売上原価÷期末棚卸資産」で計算しました。売上原価の代わりに売上高を使う場合もあります。

このような高回転率を実現できているのは、同社がECなどで集めたデータを分析し、「売れる分だけ作る」ことを意識しているためです。

商品を発注する段階では、「SKU※4」という色やサイズといった単位別の需要予測をおこない、その予測に見合った発注をすることで、過度に在庫が多くならない工夫を凝らしています。

※4 SKU(エスケーユー)とは、「Stock Keeping Unit」の略です。受発注や在庫管理をおこなうときの最小の管理単位を指します。例えば、同じTシャツでも色とサイズのかけあわせで種類が複数あるので、「黒・Sサイズ」「青・Lサイズ」のように管理する必要があります。

一般的なアパレル企業では、100個の需要に対して200個発注し、売れ残った分はセールで販売するといった考え方を持っているでしょう。弊社の場合は、100個のニーズに対して125個ほどしか発注せず、無駄な在庫を持たないことで、枯渇感をうまく醸成できています。

キューブ 小澤取締役小澤取締役

ひらめきにしけい

蓄積したデータを活用して効率的に販売するとともに、ブランドの希少性を高めることにもつながっているのですね!

今後の経営戦略

ここからはキューブの今後の経営戦略を見ていきましょう。注目すべきポイントは以下の2点です。

今後の経営戦略のポイント

①ブランディングへの注力

キューブでは、創業以来ブランディングに取り組んでいます。同社の一番の強みになっている部分なので、今後も注力していく方針です。具体的には下の2つの施策を掲げています。

ブランディングに関する2つの取り組み

  • デザイナーの獲得と教育
  • ブランドの深化

デザイナーの獲得と教育

ブランディングに注力するうえで最も重要なのが、「デザイナーの獲得と教育」です。キューブの強みである“他人と被らない希少性”や“高いデザイン性”を維持するためにも、この取り組みは欠かせません。

富裕層の方々がMARK & LONAを選ぶ最大の理由である「新しい提案」を続けていくためにも、デザイナーの確保と教育が大切です。

キューブ 小澤取締役小澤取締役

ブランドの深化

キューブでは、富裕層の方々の細かいニーズに対応させるために新しいカテゴリーを開発し、ブランドを掘り下げています。この取り組みは今後も継続する方針です。もちろん、MARK & LONAの根幹は変わりません。

MARK & LONAでは現在、軸となる「GENERAL(ジェネラル)」のほかに、モノトーンを基調とした「CODE(コード)」、アンバサダーのライフスタイルを落とし込んだ「FER(ファー)」、カジュアルウェアとしても使える「ALARM(アラーム)」といった複数のコレクションを提案しています。

<幅広いコレクションを展開>

幅広いコレクションを展開

(出典:キューブ 2023年12月期 第3四半期決算説明補足資料[PDF])

また、MARK & LONAの世界観を世の中に発信するため、2023年4月には東京・青山にフラッグシップストアをオープンしました。

<フラッグシップストアオープン>

フラッグシップストアオープン

(出典:キューブ 公式ホームページ

このあと説明する「海外展開」に注力するために、ブランド発信起点となる日本において、引き続き海外の方を呼び込める場所の開発を進めていく方針です。

②海外展開

キューブは海外展開にも引き続き力を入れていく方針です。

具体的には、将来的にGDP※5が拡大し、多くのゴルフ場があり、今後もゴルフ市場の成長が見込めるアジアASEAN地域への展開を強化していく方針です。

※5 GDP(ジーディーピー)とは、1年間など、一定期間内に国内で産出された付加価値の総額で、国の経済活動状況を示します。

直近では、すでに台湾とインドネシアに進出しており、順次、ベトナム、タイ、香港、シンガポール、中国本土での展開の検討を進めています。

<海外展開の状況>

海外展開の状況

(出典:キューブ 2023年12月期 第3四半期決算説明補足資料[PDF])

なお、海外展開をするにあたり、EC展開と卸・代理店候補の発掘を進めています。EC展開で集まったデータを分析して出店候補地を洗い出し、現地の高級ブティックやセレクトショップなどの卸・代理店を発掘し、商品を卸売する流れです。

「直営店を出店すれば良いのでは?」と思われるかもしれませんが、いきなり自前の店舗を出店するのはリスクが高いと言えます。万が一、直営店を出店した地域で売上が立たなければ、出店コストが無駄になってしまうからです。

このような事態を避けるため、キューブではまずECでデジタルマーケティングをおこない、卸売で実際の売れ行きをチェックしてから代理店の展開、さらに直営店を出店することが有用と考えれば自前で出店していく方針としています。

個人投資家へのメッセージ

指さしにしけい

最後に、個人投資家へのメッセージをお願いいたします!

弊社は上場して1年程度の若い会社であり、我々の魅力をすべて伝えきれていないかと考えています。

これまで、日本発のブランドで、世界的に認知されているラグジュアリーブランドはなかなか出てきていないのではないでしょうか。我々はMARK & LONAブランドでそれを実現する最初の会社になることを目指しています。

また、ブランドだけではなく、弊社自身もグローバルに通用する会社に成長していきたいと考えていますので、まずは我々の会社、ブランドを知っていただければと思います。

キューブ 小澤取締役小澤取締役

指さしにしけい

この度は取材にご協力いただき、ありがとうございました!

キューブへの取材は以上となります。同社が展開する高級ゴルフウェアブランド「MARK & LONA」は、希少性高いデザイン性を武器に、富裕層の方々から絶大な人気を集めています。

春夏と秋冬の年2回「新たな提案」を続けて顧客を飽きさせない点も、MARK & LONAの強みと言えるでしょう。約46兆円のグローバルラグジュアリー市場を視野に、海外展開にも力を入れていく方針です。今後の成長が楽しみですね!

MARK & LONAは、東京・名古屋・大阪・福岡・札幌の百貨店などに店舗を構えています。キューブはもちろんのこと、MARK & LONAにも興味を持った方は、ぜひ一度店舗に足を運んで商品を見てみてください!

指さしひっきー

当サイトでは、上場企業に取材させていただき、事業内容や成長戦略などを株初心者向けにわかりやすく解説した“企業紹介記事”を公開しています。こちらで記事の一覧を公開していますので、ぜひご覧ください。株初心者の方が企業を知るきっかけになれますと幸いです。

また、当サイトの取材を希望される上場企業の担当者様は、お問い合わせフォームからご連絡をお願いいたします。ご連絡をいただいた担当者様に、企業紹介記事の企画概要資料をご送付するほか、取材のご案内をいたします。

ディスクレーマー

当記事では、筆者独自の見解を述べることがありますが、証券およびその他の金融商品の売買や引受けを勧誘する目的ではなく証券およびその他の金融商品に関する助言や推奨をするものではありません。また、個別企業の業績予想や株価予想、投資推奨を提供する予定はありません。投資判断等は、自己責任でお願いいたします。

にしけい

この記事の執筆者

にしけい

社内の余裕資金を運用するファンドマネージャーです!当サイトで上場企業のIR取材記事やコラムを執筆しています。企業分析と経済分析が趣味で、BSテレビ東京『マネーのまなび』や日経ヴェリタス、日経マネー等への掲載歴があります。日本証券アナリスト協会検定会員補(CCMA)、簿記2級、FP2級の資格を保有しています。

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