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増担保規制(ましたん)とは?発動するとどうなる?解除条件や株価への影響を解説
「増担保規制(ましたんぽきせい)」とは、信用取引が過熱するのを抑える規制です。具体的には、信用取引の際に証券会社へ差し入れる「委託保証金※1」と呼ばれる担保を、通常の30%よりも高く設定します。“担保の金額を増やす規制”なので、略して増担保規制と呼ばれます。
※1 委託保証金は、現金だけでなく、株式や債券を差し入れることもできます。
増担保規制は、次の4段階でおこなわれ、各段階に委託保証金率が設定されています。第1次措置では抑え込めないほど信用取引が過熱したときに、第2次措置、第3次措置の順に規制がきびしくなります。
措置 | 委託保証金率 |
---|---|
第1次措置 | 委託保証金率50% (うち、現金保証金分20%) |
第2次措置 | 委託保証金率70% (うち、現金保証金分40%) |
第3次措置 | 委託保証金率90% (うち、現金保証金分60%) |
第4次措置 | 新規の信用買い禁止 |
それぞれの措置について、かんたんに説明します。第1次措置では、委託保証金率が50%に引き上げられます。つまり、100万円の信用買いをおこなう場合は「50万円」の保証金が必要になります。同じように、第2次措置では70万円、第3次措置では90万円の保証金が必要です。
それでも抑えきれない場合は、第4次措置が取られて、新規で信用買いできなくなります。信用買いが禁止された銘柄には、証券会社の銘柄個別ページで「新規買停止」などと書かれています。このほか、証券会社が独自に委託保証金率を引き上げることがあるので、株価が急上昇し続けている銘柄を取引する際には、注意が必要です。
増担保規制が用意されている理由は、投資家を守るためです。信用取引によって株価が急激に上がった銘柄は、その後に一気に下がることがあります。急激に株価が下がれば、大損する投資家が出てくるかもしれません。だからこそ、信用取引で過熱感のある銘柄に増担保規制をかけ、投資家に注意を促して守ろうとしているのです。
ポイント
Twitterを見ていると、「増し増し担」や「増し増し増し担」などの言葉を見かけるときがあります。これは、「増し」の数によって“第何次の措置か”を表しています。「増し増し担」は“第2次措置”、「増し増し増し担」は“第3次措置”です。
増担保規制が発動する条件は?
増担保規制(第1次措置)が発動する条件をまとめると、下の表のようになります。かなり細かく条件が設定されており、計算も必要です。かなり複雑なので、完全に理解する必要はありません。
基準 | 条件 |
---|---|
残高基準 | 信用売り株式数÷上場株式数=15%以上、かつ 信用売り株式数÷信用買い株式数=70%以上 |
信用買い株式数÷上場株式数=30%以上、かつ 3営業日連続して「各営業日の株価÷25日移動平均株価※2=±30%以上」 |
|
「信用取引残高が継続的に増加している銘柄」として公表した日の翌月の応当日以降、 信用売り株式数÷上場株式数=15%以上、または 信用買い株式数÷上場株式数=30%以上 |
|
信用取引 売買比率基準 |
3営業日連続して「各営業日の株価÷25日移動平均株価=±30%以上」、かつ 3営業日連続して信用取引の新規売付比率が20%以上 |
3営業日連続して「各営業日の株価÷25日移動平均株価=±30%以上」、かつ 3営業日連続して信用取引の新規買付比率が40%以上 |
|
売買回転率基準 | 「1営業日の株価÷25日移動平均株価=±20%以上」、かつ 売買高が上場株式数以上であり、かつ、営業日の信用取引の新規売付比率が30%以上 |
「1営業日の株価÷25日移動平均株価=±20%以上」、かつ 売買高が上場株式数以上であり、かつ、営業日の信用取引の新規買付比率が60%以上 |
|
特例基準 | 証券取引所が信用取引の利用状況や、銘柄の特性を考慮し、必要と判断した場合 |
※2 各営業日時点の25日移動平均株価
条件を見ると、むずかしい用語が並んでおり、計算式も入っています。かんぺきに理解する必要はなく、「信用取引によって値動きが激しくなったとき」に増担保規制が適用されると考えておけばOKです。
第2次措置以降にも、細かい条件が指定されています。詳しく知りたい方は、日本取引所グループが出している『信用取引に係る委託保証金の率の引上げ措置等に関するガイドライン(PDF)』をご覧ください。
2021年3月1日より、上場から25日未満のIPO銘柄も増担保規制の対象となりました。具体的に説明すると、IPO銘柄が“売買回転率基準”に当てはまった場合に、増担保規制が発動されます。売買回転率基準では、「25日移動平均株価」を使って過熱感を計算しますが、IPO銘柄で上場から25日未満の場合は、「日々公表銘柄に指定された日の株価」に置き換えて計算します。
IPO銘柄の増担保規制についても、日本取引所グループが出している『信用取引に係る委託保証金の率の引上げ措置等に関するガイドライン(PDF)』6ページ目にある(注6)に詳しい説明が載っています。詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
増担保規制が解除される条件は?
増担保規制が解除される条件は、下のようになっています。
基準 | 条件 |
---|---|
残高基準 | 5営業日連続して「信用売り株式数÷上場株式数=12%未満」 |
5営業日連続して「信用買い株式数÷上場株式数=24%未満」 | |
株価基準 | 5営業日連続して「各営業日の株価÷25日移動平均株価=±15%未満」 |
以上の条件に当てはまると、増担保規制が解除されます。こちらもむずかしい用語が並んでいますが、「信用取引が落ち着けば」増担保規制がなくなると考えておけばOKです。ただし、解除の条件を満たしていても、証券会社が「解除しないほうが良い」と判断したときは、増担保規制が解除されません。
株価への影響は?
増担保規制は、株価の動きに影響を及ぼします。どんな影響があるのか、増担保規制にかかったときと、増担保規制が解除されたときに分けて説明します。
増担保規制にかかったとき
増担保規制がかかると、信用取引に必要な資金が大きくなるので、新しく信用買いする人が減ります。買い圧力が弱くなるので、基本的には株価の上昇が止まったり、株価が下がったりします。
それでは、ベビーカレンダー(7363)を例に、株価の動きを追ってみましょう。ベビーカレンダーは、育児向け情報メディアなどを運営する会社です。この銘柄は、菅義偉首相が「こども庁」創設を目指していると伝えられたのを受け、信用買いが集中して株価が急上昇しました。
過熱感が高まっていたため、2021年4月6日に増担保規制の対象となりました。こども庁創設が確定したわけではなく、短期間で株価が急上昇していたため、規制後は利益確定売りが増え、株価が下がりました。増担保規制は、株価の過熱感を抑えるのが目的なので、見事に役割を果たしたと言えるでしょう。
<ベビーカレンダー(7363)の株価推移>
(出典:SBI証券)
ただし、将来の成長が期待されている銘柄は、増担保規制がかかったとしても、株価が上がり続けるときがあります。例えば、医療画像表示システムや再生可能エネルギー事業などをおこなうイメージワン(2667)は、福島第一原発の汚染水処理に、同社の技術が採用されるとの予測から、株価が急上昇しました。
<イメージワン(2667)の株価推移>
(出典:SBI証券)
このように、事業内容によっては、増担保規制に関係なく株価が上がっていきます。見分けるのはむずかしいですが、「中長期的に成長が見込めるかどうか」がポイントとなりそうです。
以上をまとめます。増担保規制になると、基本的に株価が下がりやすくなります。直前に株価が急上昇して、想定していたよりも割高になっているときは、いったん売って利益を確定させるのも良いでしょう。ただし、そこまで割高感がなかったり、中長期的に持ち続けたかったりする場合は、継続保有しておけば良いです。
増担保規制が解除されたとき
増担保規制が解除されるのは、「信用取引による過熱感がなくなった」からです。そのため、増担保規制が解除されたあと、基本的には株価は横ばい、もしくは下がっていきます。
例えば、決算発表で来期の黒字転換が明らかになったセーラー万年筆(7992)は、増担保規制になる前に株価が急上昇しました。しかし、増担保規制になったあとは、利益確定売りによって株価が下がり続けました。2021年3月10日に増担保規制が解除になりましたが、解除後もじわじわ株価が下がり、200円付近で推移しています。
<セーラー万年筆(7992)の株価推移>
(出典:SBI証券)
しかし、多くの投資家が「増担保規制になって株価が下がっても持ち続けたい」と考えている銘柄であれば、増担保規制が解除されたあとに再び信用買いが集まって、株価が上がっていきます。
例えば、半導体検査装置などを作っているシキノハイテック(6614)は、IPO直後に株価が大きく上がりました。理由は、シキノハイテックが上場した2021年3月ごろ、次世代通信規格である5GやAI(人工知能)などの技術を支える、半導体銘柄に注目が集まっていたからです。
この銘柄は、増担保規制が発動してからも株価が上昇を続けました。そして、2021年4月13日に増担保規制が解除になると、その日はストップ高となりました。増担保規制が解除され、信用買いが集まったと考えられます。
<シキノハイテック(6614)の株価推移>
(出典:SBI証券)
シキノハイテックのように、5GやAIによって中長期的な成長が期待される銘柄は、投資家たちが「今後成長しそうだから、増担保規制で株価が下がっても持ち続けたい」と考えていた可能性が高いです。そのため、増担保規制中はもちろん、解除後も株価が上がり続けました。
このような性質を使って、増担保規制が解除されたあとの株価上昇を狙う投資法があります。しかし、中長期的な成長が期待できる銘柄であっても、100%株価が上がるかどうかは、実際に増担保規制が解除されなければわかりません。ギャンブルに近い投資法なので、株初心者の方は手を出さないほうが良いでしょう。
増担保規制の銘柄を調べる方法
日本取引所グループ(JPX)の信用取引に関する規制等で、増担保規制が掛かっている銘柄と、増担保規制が解除された銘柄が紹介されています。増担保規制の銘柄を調べたいときは、こちらのページをご覧ください。
まとめ
増担保規制の意味や条件を紹介してきました。なかなか聞きなれない制度ですが、信用取引が過熱するのを抑えて、投資家を守るものです。基本的に、増担保規制になった銘柄は値動きが落ち着くのですが、投資家の成長期待が大きいときなどは株価が上がり続けます。
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