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株の持ち合い(政策保有株式)とは?企業にとってのメリット・デメリット、解消理由などをわかりやすく解説

にしけい担当:にしけい

最終更新日:2024年8月2日

持ち合い株とは、企業どうしがお互いに持ち合っている株式のことで、別名「政策保有株式」とも呼ばれます。敵対的買収の防止や取引関係の強化、安定株主の獲得などを目的に多くの企業でおこなわれている日本特有の慣習です。

しかし、持ち合い株にはデメリットも多く、東京証券取引所による改革によって持ち合い株は減ってきています。最近では、損害保険会社やトヨタ自動車の持ち合い株解消などが話題になったため、持ち合い株について気になっている人が増えているようです。

このコラムでは、持ち合い株(政策保有株式)とは何かという基礎的な情報はもちろん、持ち合い株の慣習が生まれた背景や企業にとってのメリット・デメリットなどについてわかりやすく解説します。

持ち合い株(政策保有株式)とは?

持ち合い株(政策保有株式)とは、企業どうしがお互いに持ち合っている株式です。例えば、下のイラストのようにA社がB社株を、B社がA社株を保有しています。この状態を「株式の持ち合い」と呼び、お互いに持っているA社株やB社株を「持ち合い株(政策保有株式)」と言います。

<持ち合い株のイメージ>

持ち合い株のイメージ

わざわざ株式を持ち合う背景には、取引関係の維持や強化や敵対的買収のリスク軽減など以下にリストアップした目的があります。

持ち合い株の主な目的

  1. 取引関係の維持・強化
  2. 業務提携の円滑化
  3. 敵対的買収のリスク軽減

したがって、株価の値上がり益や配当を目的とした一般的な株式投資とは毛色が異なります。あくまでビジネス上のメリットを手に入れるためにおこなわれる行為なのです。

株式の持ち合いは日本特有の慣習で、海外では見られません。なぜ日本でこのような慣習ができあがったのでしょうか。持ち合い株の歴史を見ていきましょう。

持ち合い株の歴史

持ち合い株の慣習がはじまったのは、第二次世界大戦後にGHQ※1が進めた財閥解体がきっかけです。財閥解体とはGHQがおこなった経済民主化政策のひとつで、三井・三菱・住友・安田などの財閥が所有していた株式を整理したり、財閥一族を財界から追放したりして、資本を独占させないようにしました。

※1 GHQとは、「General Headquarters of the Supreme Commander for the Allied Powers」の略称です。日本語では「連合国最高司令官総司令」と呼ばれます。第二次世界大戦後の1945年から1952年にかけて連合国軍が日本を占領しており、その期間中に東京に置かれた最高司令部のことです。GHQは絶対的な権限を持ち、日本政府に指令を出し、民主化のための改革がおこなわれました。

この際、各財閥の株式が市場に放出されたため、1960年代になると資本自由化の流れの中で海外企業による買収リスクが高まったのです。敵対的買収を防ぐためには安定株主を確保する必要があり、旧財閥の関係企業が株式の持ち合いをするようになりました。

さらに、1980年代後半のバブル期になると、企業の資金調達の受け皿として株式の持ち合いが活用されます。具体的には新株を発行して資金調達する「エクイティ・ファイナンス」という方法が取られ、銀行が系列企業の株式を購入し保有するようになったのです。

それでは、日本企業の持ち合い株にはどのような事例があるのでしょうか。

持ち合い株の例

持ち合い株の具体例として、損害保険会社を紹介します。

損害保険会社では、顧客企業との取引関係円滑化を目的に株式の持ち合いをしています。例えば東京海上ホールディングス(8766)は、トヨタ自動車(7203)三菱商事(8058)本田技研工業(7267)などの持ち合い株があります。他の損害保険会社も同様で、顧客企業の株式を保有しているのです。

実際に東京海上ホールディングスの有価証券報告書を確認すると、「特定投資株式」の部分に持ち合い株が載っています。

<東京海上ホールディングス:特定投資株式>

東京海上ホールディングス:特定投資株式

(出典:東京海上ホールディングス 2024年3月期有価証券報告書[PDF])

持ち合い株のメリット

続いて、持ち合い株の主なメリットを3つご紹介します。いずれも企業にとってのメリットです。

それぞれ説明しますね。

①取引関係の強化

持ち合い株のメリット1つ目は、取引関係の強化です。取引先とお互いの株式を持ち合うことで信頼関係が深まり、長期的かつ安定的な関係の構築が期待できます。

ビジネスでは、このような信頼関係がとても重要です。お互いに信頼していれば、取引条件の優遇新規事業・研究開発における協力体制を作りやすくなります。持ち合い株は、より有利な条件でビジネスを進めるための重要なカードと言えますね。

②敵対的買収のリスク軽減

2つ目のメリットは、敵対的買収のリスク軽減です。持ち合い株の歴史でも紹介したように、上場企業は買収リスクにさらされています。敵対的な買収を防ぐためには安定株主を確保する必要があり、その際に持ち合い株が活用されました。

株式の持ち合いをおこなう場合、基本的には取引関係のある自社に友好的な企業が相手になります。このため、他社が買収を仕掛けたとしても株式を売り渡す可能性が低く、買収者は経営を支配できるほどの株数を買い集めることがむずかしくなります。

③経営の安定化

メリットの3つ目は、経営の安定化です。繰り返しの説明になりますが、株式の持ち合いは自社に友好的な企業が相手となります。このため、株主総会での賛同票が得やすく、経営の意思決定をスムーズにおこなえるメリットがあるのです。

また、持ち合い株は長期的な保有を前提としているため、短期的な業績の悪化などを理由に取引先が株式を売るとは考えられません。このため、株価の変動を抑えられる点もメリットと言えるでしょう。

経営陣にとっては株価の変動をあまり意識しなくても良いため、腰を据えて経営に取り組むことができます。以上の理由から、持ち合い株は経営の安定化に寄与するのです。

持ち合い株のデメリット

次に、持ち合い株の主なデメリットを4つご紹介します。①と②は企業にとってのデメリット、③と④は投資家にとってのデメリットです。

それぞれのデメリットについて説明します。

①資本効率の低下

持ち合い株の1つ目のデメリットは、資本効率の低下です。持ち合い株が資本効率の低下につながる説明として、ROE(自己資本利益率)に注目したものと成長投資に注目したものの2つがあります。それぞれ説明しますね。

ROEに注目

まず、ROEに注目して説明しましょう。ROEは以下の計算式で表されるとおり、当期純利益を自己資本で割って求めます。

ROEの計算式

ROE=当期純利益÷自己資本×100

ここでROEが低下する場合を考えてみましょう。分子にあたる当期純利益が減少するか、分母の自己資本が増加するかの2パターンが考えられます。株式の持ち合いは自己資本を増加させる場合があるため、ROEを押し下げる要因となるのです。これは資本効率の低下を意味します。

なぜ、持ち合い株は自己資本を増加させるのでしょうか。これを理解するためには会計の知識が必要です。少しむずかしい話なので、下の段落は読み飛ばしていただいて構いません。

持ち合い株は「その他有価証券」に分類され、決算時点の利益や損失は損益計算書には反映させず「その他有価証券評価差額金」という貸借対照表の勘定科目で処理します(原則として全部純資産直入法を考えます)。その他有価証券評価差額金は自己資本※2に含まれる「その他の包括利益累計額※3」の構成要素であるため、持ち合い株が値上がりした場合に自己資本が増える可能性があるのです。

※2 自己資本=資本金+資本剰余金+利益剰余金+自己株式+その他の包括利益累計額
※3 その他の包括利益累計額=その他有価証券評価差額金+繰延ヘッジ損益+為替換算調整勘定+退職給付に係る調整額

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成長投資に注目

次に、成長投資に注目して説明します。こちらはROEの説明とは違って感覚的なものです。

企業は貴重な資金を持ち合い株に投資するのか、新規出店や設備投資などの成長投資に回すのかを検討することになります。持ち合い株に投資して値上がり益を手に入れたり、取引関係の強化によってビジネスが強くなったりすれば、投資としては成功と言えるでしょう。

しかし、持ち合い株の投資効果を測ることはむずかしく、企業側もその目標や具体的な成果を開示するのはむずかしいです。さらに、持ち合い株の株価がどのように動くかを正確に予測することはできず、結果的に損失が発生する可能性もあります。

一方、成長投資は比較的成果が見えやすく、直接的な本業の強化が可能です。飲食店であれば新規出店で売り上げを伸ばすことができますし、製造業であれば設備を新しくすることで生産性の改善が見込め業績アップが期待できるでしょう。

持ち合い株への投資と成長投資を比べると、成長投資のほうが高い費用対効果を得られる可能性が高いと考えられます。こういった視点からも、持ち合い株への投資は資本効率の低下につながると考えられるのです。

②ガバナンスへの懸念

2つ目のデメリットとして、ガバナンスへの懸念が生じる点があります。メリットで説明したように、自社と友好関係にある企業が株式を保有しているため、賛成票が得やすくなるためです。

経営の意思決定をスムーズにおこなえる点は良いのですが、仮に経営陣が自分たちや取引先だけに有利でほかの株主にとって不利な施策であってもその施策が可決されてしまうリスクがあります。これは「③株主利益の軽視」にも関係するものです。

さらに、株式の持ち合いをしている取引先は、「経営者が適切に経営できているかを監視する」という株主の役割を果たさない可能性もあるのです。企業の監視機能が失われ、経営陣だけに有利な施策がおこなわれた結果、業績が悪化したり社会的な信頼が失われたりするかもしれません。

③株主利益の軽視

3つ目のデメリットは、株主利益の軽視です。ここからは主に投資家にとってのデメリットになります。

②ガバナンスへの懸念」で紹介したように、取引先との株式の持ち合いによって、取引先以外の株主(少数株主)に不利な施策が決定される可能性があるのでした。

取引先は「モノ言わぬ株主」なので、経営陣にとって有利な施策ばかりが可決される可能性があります。例えば、経営陣がリスクを取ることを嫌い安定経営に舵を切った場合、その企業は成長機会を逃してしまうかもしれません。

こういった判断は株主価値や企業価値の最大化にはつながらず、株主利益が軽視されている状態と言えます。

④適正な株価形成の妨げ

4つ目のデメリットとして、適正な株価形成の妨げが挙げられます。持ち合い株は、以下に挙げた2つの理由から適正な株価形成を妨げるリスクがあるのです。

流動性の低下

1つ目の理由は流動性の低下です。取引先による保有割合が高い場合、株式市場で取引される株式が減ってしまいます(流動性の低下)。これによって買いたい価格で買えない、売りたい価格で売れない状態となり、適正な株価形成ができなくなってしまうのです。

企業価値が反映されない

2つ目の理由は企業価値が反映されない点です。取引先は関係性維持などを目的に長期的に株式を保有するため、業績の悪化や市場環境の変化などで企業価値が低下したとしても株価が下がらず、企業価値を反映した適正な株価形成ができないリスクがあります。

このように、持ち合い株には企業や投資家にとってのデメリットも多いのです。

持ち合い株の解消理由を3つ解説

最近は、先ほど紹介した持ち合い株のデメリットに加えて、3つの理由から持ち合い株を解消する企業が増えています。

持ち合い株を解消する3つの理由

  1. 海外投資家による売却圧力が強まった
  2. コーポレートガバナンス改革がはじまった
  3. 株高で持ち合い株を売りやすくなった

①の海外投資家による売却圧力については、実は1990年代から存在しています。先ほどのデメリットで紹介したとおり、持ち合い株にはガバナンスに関する懸念があります。結果的に株主利益の軽視につながるため、持ち合い株の解消を迫っているのです。

具体的な海外投資家の主張として、次のようなものがあります。取引先が安定株主として存在するため、企業が収益性の低い事業から撤退せず、企業の競争力低下につながったという主張です。

②コーポレートガバナンス改革については、2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コードで株式の保有目的を説明するよう求められたことがきっかけです。さらに2018年のコーポレートガバナンス・コード改訂では、持ち合い株の見直し推奨や開示ルールの厳格化が示されました。

このようなことに加えて、足元の株高で持ち合い株を売りやすくなったことも追い風になったようです。持ち合い株の解消については、別のコラムで詳しく解説予定です。

まとめ

持ち合い株とは、企業どうしがお互いに持ち合っている株式を指します。日本特有の慣習で敵対的買収を防げたり取引関係を強化できたりする一方、ガバナンスの懸念や株主利益の軽視、市場原理のゆがみをもたらすリスクがあります。

海外投資家やコーポレートガバナンス・コードによって、最近は持ち合い株を解消する企業が増えてきています。まだ株式の持ち合いをしている企業が存在するため、今後解消されていくかに注目です。また、持ち合い株の解消で得た資金を増配や自社株買いに回す可能性もあります。この点については別の記事で解説予定です。

にしけい

この記事の執筆者

にしけい

社内の余裕資金を運用するファンドマネージャーです!当サイトで上場企業のIR取材記事やコラムを執筆しています。企業分析と経済分析が趣味で、BSテレビ東京『マネーのまなび』や日経ヴェリタス、日経マネー等への掲載歴があります。日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)、簿記2級、FP2級の資格を保有しています。

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