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関西スーパーマーケットをめぐる争奪戦・TOBについて解説!株価はどうなる?

ゆうと担当:ゆうと

最終更新日:2023年11月30日

2021年9月2日、神奈川県を地盤に首都圏で「オーケーストア」を展開する オーケーが、関西スーパーマーケット(9919)に対して1株2,250円で対抗TOB(株式公開買い付け)をおこなう予定であると、日経新聞が報道※1しました。

すでに、H2Oリテイリング(8242)が関西スーパーマーケットの買収を発表※2しているため、関西スーパーマーケットをめぐる争奪戦に発展する可能性があります。この記事では、両者による買収の目的、関西スーパーマーケットにとってのメリット、株主にとってのメリットについて解説していきます。

※1 参考:オーケー、関西スーパーに買収提案 H2Oと争奪戦
※2 参考:関西スーパーマーケットとの経営統合、同社とイズミヤ、阪急オアシスの株式交換、同社の中間持株会社体制への移行、子会社等の異動[PDF]

H2Oリテイリングによる買収の目的は?

H2Oリテイリングが関西スーパーマーケットを買収する目的は、傘下の阪急オアシス・イズミヤと統合して、食品事業を強化するためです。実際、H2Oリテイリングは2021年5月の中期経営計画で、食品事業の営業利益を40億円から100億円まで伸ばす方針を発表しています。そのため、今回の買収もその一環であると見られます。

スーパーマーケット・ディスカウントストア業界の売上高ランキング(2021年9月3日現在)
順位 社名 売上高
(億円)※3
1 イオン(総合スーパー+スーパーマーケット事業) 63,351
2 セブン&アイ・ホールディングス(スーパーストア事業) 18,109
3 パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス 17,086
4 西友※4 ※5 7,850
5 ライフコーポレーション 7,591
6 バローホールディングス 7,302
7 イズミ 6,798
8 アークス 5,569
9 オーケー※4 5,089
10 ヤオコー 5,079
11 平和堂 4,393
12 トライアルホールディングス※4 4,251
13 関西スーパーマーケット+阪急オアシス・イズミヤ 3,915
14 万代※4 3,795

※3 各社の売上高は、前期末の決算情報から引用しています。
※4 非上場の会社は会社HPなどから引用しています。
※5 決算期の問題等で2020年の情報を引用しています。

一方の関西スーパーマーケットにとっては、H2Oリテイリング(阪急オアシス・イズミヤ)を取り込むことで、単純合計の売上高が3倍・経常利益が2倍へと急拡大し、中堅規模から一気に業界上位に近づく規模になります。

具体的には、経営統合により規模が拡大することで調達コストが引き下がり、利益率が改善することも期待されます。H2Oリテイリングによる買収成立後は、関西スーパーマーケットはH2Oリテイリングの傘下に入りますが上場を維持する予定です。

そのため、関西スーパーマーケットと阪急オアシス・イズミヤの統合がうまく進み、さらに収益を上げることができれば、オーケーによるTOB価格より株価が上昇する可能性があります。

オーケーによる買収の目的は?

オーケーが買収する目的は、関西スーパーマーケットを取り込んで関西へ進出するためです。実際、オーケーは2016年から営業強化や重要提案などをおこなう目的で、関西スーパーマーケット株を約8%保有しており、水面下で買収交渉をおこなっていたと報じられています。以前から関西スーパーマーケットを買収する機会を狙っていたのではないでしょうか。

売上高5,000億円以上のスーパーマーケット・ディスカウントストアの利益率ランキング(2021年9月3日現在)
順位 社名 経常利益率※6
1 オーケー 6.18%
2 イズミ 5.31%
3 パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス 4.77%
4 ヤオコー 4.37%
5 バローホールディングス 3.89%
6 ライフコーポレーション 3.71%
7 アークス 3.50%
8 セブン&アイ・ホールディングス(スーパーストア事業)※7 1.64%
9 イオン(総合スーパー+スーパーマーケット事業)※7 0.55%

※6 経常利益率とは、会社の収益性を計る指標であり、一般的に高いほど優れていると言えます。ただし、業種や業界により平均が異なるため、競合他社などと比較する必要があります。「経常利益÷売上高×100%」で計算することができます。
※7 経常利益率が不明だったため、セグメント利益率で代用しています。

一方の関西スーパーマーケットにとっては、低価格路線で収益性の高いオーケーのノウハウを吸収することで、経常利益率の改善が期待できます※8

※8 関西スーパーマーケットの経常利益率は2.36%(2021年9月2日現在)。

オーケーは関西スーパーマーケットの完全子会社化を目指しているため、買収完了後は上場廃止になる予定です。そのため、TOBが成立すれば、すべての株主から1株2,250円で買い取られることになります。

しかしながら、オーケーによる対抗TOBの実施には、先行して進められているH2Oリテイリングによる関西スーパーマーケットの買収が失敗に終わることが条件となります。具体的には、2021年10月29日に開催予定の、「関西スーパーマーケットの臨時株主総会」で、阪急オアシス・イズミヤとの経営統合議案が1/3以上の反対票を集めて、否決されることが必要です。

今後の株価への影響

オーケーによる対抗TOBの報道を受けて、制限値幅上限(ストップ高水準)の1,674円まで株価が上昇しています(2021年9月3日14時現在)。ただ、今回のTOBは、まだ正式に発表されておらず、H2Oリテイリングによる買収が失敗に終わることが条件であるため、株価はTOB価格まで上がらない可能性もあるので注意が必要です。

関西スーパーマーケット(9919)の板情報>

関西スーパーマーケット(9919)の板情報

(出典:SBI証券

争奪戦のカギを握っているのは、関西スーパーマーケットの経営陣と個人株主です。「H2Oリテイリング」と「オーケー」、どちらの提案が、より関西スーパーマーケットの企業価値を高められるかが重要と言えます。

「関西スーパーマーケット」と「阪急オアシス・イズミヤ」との経営統合議案が可決 (2021年11月12日追記)

2021年10月29日、関西スーパーマーケットは、阪急オアシス・イズミヤとの経営統合の賛否を問う臨時株主総会を開催しました。今回のように会社の将来を大きく左右する重要な決議をおこなうときは、特別決議(株主権の2/3以上の賛同)を経る必要があります。

結果として、統合議案は66.68%の賛同を集めて可決したのですが、これは議決権で言えば46個(4,600株)でひっくり返るほどの僅差であり、H2Oリテイリング・関西スーパーマーケットの経営陣にとっては薄氷の勝利と言えます。

関西スーパーマーケット争奪戦の構図(毎日新聞社より引用)

出典:関西スーパー、H2O統合案「薄氷」可決 賛成率66.68% 株主から批判続々 | 毎日新聞

一方、オーケーは臨時株主総会の結果を受けて、関西スーパーマーケットに対する買収提案を取り下げると発表したことから、阪急オアシス・イズミヤとの経営統合はスムーズに進むものと見られていました。

しかし、総会検査役が裁判所に提出した報告書は、「経営統合議案が一旦は否決となったものの、関西スーパーマーケットが一部の棄権票を賛成に変更したことにより、結果が覆って可決となった」という内容でした。

このような報告書の内容を受けたオーケーは、「関西スーパーマーケットが自らが有利なように結果をねじ曲げた」として、経営統合の差し止めを求める仮処分の申立てをおこないました。

関西スーパーマーケットが一部の棄権票を賛成に変更した理由は、事前に提出していた「委任状」や「議決権行使書」で賛成の意思を示していた株主が、当日の臨時株主総会で白票を投じた※9ものの、その株主から「賛成の意思表示のとおり取り扱われているか確認してほしい」と申し出があったため、賛成として取り扱ったとしています。

※9 白票は棄権扱い。

このように、両社の見解は大きく異なっています。今後は元々は賛成する意思を示していた株主が、総会当日に投じた白票を賛成として取り扱うことが、適法か否かが問われることになると思われます。

「関西スーパーマーケット」と「阪急オアシス・イズミヤ」との経営統合を差し止める仮処分決定 (2021年11月24日追記)

2021年11月22日、神戸地裁は、関西スーパーマーケットと阪急オアシス・イズミヤとの経営統合を差し止める仮処分決定をしました。仮処分決定の理由は、関西スーパーマーケットが株主の投じた白票(棄権票)を賛成票として取り扱ったことに対して、法令違反または著しい不公正があるとしたためです。また、申立人であるオーケーの権利が侵害される恐れがあり、その権利を保全するものでもあります。

オーケーは申立が認められて、関西スーパーマーケットと阪急オアシス・イズミヤとの経営統合が中止された場合、1株2,250円でTOBをおこなう方針です。そのため、株式市場ではTOBがおこなわれる可能性が高くなったとみて、現在の株価は、ストップ高の1,904円となっています(2021年11月24日15時現在)。

関西スーパーマーケット(9919)の板情報>

>関西スーパーマーケット(9919)の板情報

(出典:SBI証券

一方の関西スーパーマーケットは、元々賛成の意思を示していた株主の申し出によって、当日に投じた白票を賛成票として取り扱っただけであり、意図的に結果をねじ曲げたわけではないと主張しています。

そのため、今回の仮処分決定に対して、仮処分の保全異議申し立てをおこなう方針です。しかしながら、2021年12月1日に予定していた経営統合は、計画どおりおこなうことは難しくなったのではないでしょうか。

今回の仮処分決定により、経営統合計画が不透明になりましたが、過去には経営統合を差し止める仮処分決定が高裁で取り消された事例もあります※10。そのため、オーケーの主張がこのまま異議審や高裁でも認められるかも不透明と言えます。

※10 住友信託銀行による、「UFJグループ」と「三菱東京フィナンシャルグループ」の経営統合の差し止める仮処分が東京地裁で認められたものの、東京高裁で仮処分が取り消されました(2004年8月)。

オーケーによる許可抗告が棄却 (2022年1月31日追記)

神戸地裁では、オーケーによる主張が認められ、関西スーパーマーケットと阪急オアシス・イズミヤとの経営統合を差し止める仮処分決定がなされました。

一方、関西スーパーマーケットは、神戸地裁の決定に対して「保全異議の申立て」をおこない、一転して大阪高裁では神戸地裁の決定を取り消し、オーケーの申立てを却下する決定がなされました。

この判断を不服としたオーケーは許可抗告をおこない、最高裁において審理がされた結果、許可抗告の申立てを棄却する判断が下され、最終的には関西スーパーマーケットと阪急オアシス・イズミヤとの経営統合が適法だと認められました。

最高裁がオーケーの許可抗告の申立てを棄却した理由は、議決権を行使した株主の意思が経営統合議案に賛成であることは明確だと認定した高裁判断を支持したためです。

司法判断により決着がついたことから、関西スーパーマーケットと阪急オアシス・イズミヤは経営統合をおこない、2022年2月1日から新会社「関西フードマーケット」として再出発を進める予定です。

また、主張が退けられたオーケーは、関西スーパーマーケットに対して株式買取請求権を行使し、提示された1株1,518円の買取提示価格に合意したことで、保有株式を売却しました。今後は関西スーパーマーケットの買収資金を、関西進出に振り向けていくものと思われます。

まとめ

関西スーパーマーケットをめぐる争奪戦について解説しました。今回のポイントとなったのは、元々賛成の意思を示していた株主が株主総会当日に出席して投じた白票(棄権票)を、事後的に賛成票として扱うことが適法か否かという点でした。

この点を神戸地裁は、「軽微で形式的な誤りだったとしても訂正できない」と判断しましたが、大阪高裁では、「白票は誤認によるものであり株主の意思を考慮すれば賛成票として扱うことは適法である」と判断し、最高裁も大阪高裁の判断を支持しました。

その結果として、オーケーによる許可抗告の申立てが棄却され、関西スーパーマーケットと阪急オアシス・イズミヤとの経営統合が認められることとなりました。

今回の経営統合により、新会社の関西フードマーケットは関西有数の規模を誇るようになりましたが、収益性の低い阪急オアシス・イズミヤの立て直しや仕入れの共同など、シナジーを早期に示せるかがカギになってくると思われます。一方のオーケーは、同じ神奈川地盤のロピアに関西進出で遅れをとっているため、いち早く関西進出をおこない巻き返せるかに注目です。

ゆうと

この記事の執筆者

ゆうと 

投資歴8年の資産バリュー投資家です。いつも四季報を持ち歩き、1年の半分は株のことを考えている株オタク。若手投資家同士の交流を目的とした「名古屋若手投資家交流会」を主催しています。

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