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ニチイ学館をめぐるMBOについて、わかりやすく解説!
2020年5月8日、ニチイ学館はベインキャピタルと組み、1株1,500円でMBO※1をおこなうと発表しました。MBOとは、経営陣がすべての株式を買い取って非公開化(上場廃止)することです。
※1 MBOについては、「MBOとは?意味や目的、株価への影響をわかりやすく解説」で詳しく説明しています。
なぜMBOに踏み切ったのか?
今回のMBOは、介護事業の収益を伸ばすことや新規事業を立て直すことが目的です。そのためには、大胆な改革をおこなう必要があります。しかし、上場していると自由に経営のかじ取りができないことから、株式の非公開化(MBO)に踏み切りました。
当初、公開買い付け期間は、2020年5月11日から6月22日まででしたが、ニチイ学館の株価がMBO価格を上回って推移しているため、2020年8月3日まで延長しています。ニチイ学館の株価がMBO価格を上回っているのは、次の2つの理由があるからです。
MBO価格を上回っている2つの理由
①MBO価格が安いから
ニチイ学館の株価は、わずか1年ほど前は1,500円以上でした。しかし、今回のMBOは、コロナショックで市場全体の株価が低迷したときにおこなわれました。そのため、1,500円というMBO価格では、コロナショック以前に投資していた投資家は納得できないでしょう。
②投資会社がMBOに反対しているから
ニチイ学館の株主には、11.4%保有※2している旧村上ファンド系のエフィッシモがいます。過去には、廣済堂(7868)や東栄リーファライン(2018年6月22日に上場廃止)のMBOに対して、村上ファンド系の投資ファンドが、敵対的TOB※3を仕掛けたり、MBO価格以上で買い増しをおこなったりして、安値でのMBOを防いでいます。 2020年7月20日現在、エフィッシモは、ニチイ学館の第2位の大株主であるため、エフィッシモの動きに注目です。
さらに、香港の投資会社リム・アドバイザーズもニチイ学館のMBOに反対しています。反対している理由は、MBO決定までの過程が公正でなかったり、適正なMBO価格でなかったりしているからです。特に、リム・アドバイザーズは、MBO価格(1,500円)がニチイ学館の価値と比べて低すぎであり、2,400円が公正な価格であるといった主張※4をしています。
※2 エフィッシモの保有割合については、「変更報告書 NO.27(PDF)」をご覧ください。
※3 敵対的TOBについては、「TOBは株価にどう影響しますか?」で詳しく説明しています。
※4 リム・アドバイザーズの主張は、下記リンク先をご覧ください。
「ニチイ学館に質問状、MBOの公正性を問う」
「リム・アドバイザーズ、ニチイ学館に対しTOB期間延長と公開討論を求める新たな書簡を送付」
ニチイ学館がMBO価格の引き上げを発表(2020年8月4日追記)
ニチイ学館は、1株1,500円でMBOをおこなっていましたが、株価がMBO価格を上回って推移している状況であったため、MBO価格を1,670円に引き上げると発表しました。また、ニチイ学館はエフィッシモと交渉して、MBOが成立して上場廃止になったあとも、ニチイ学館に出資できるという条件のもと、応募の確約を取り付けました。
そのため、MBOの成立する可能性が高まったと思われます。そのほかにも、すでに創業家一族ともMBOに応募する確約をしているため、一般の株主から23.11%の応募があれば成立することになります。
一方で、リム・アドバイザーズは、1,670円は公正な価格を大幅に下回るという意見を表明して、MBOに応募しないと発表しているため、今後の動きに注目です。
ニチイ学館のMBOを時系列で確認
最初にニチイ学館がMBOをおこなったところから、主要な出来事を時系列でざっと見ていきましょう。
日付 (2020年) |
内容 |
---|---|
5月8日 | ニチイ学館が、1株1,500円でMBO開始。当時の株価は1,155円。買い付け期間は6月22日まで。 |
6月11日 | リム・アドバイザーズが、ニチイ学館のMBOに反対する資料を公開。2,400円が公正な価格であると主張。 |
6月16日 | リム・アドバイザーズが、ニチイ学館に買い付け期間の延長と公開討論を求める資料を公開。 |
6月22日 | ニチイ学館が、買い付け期間を7月9日まで延長すると発表。 |
7月9日 | ニチイ学館が、買い付け期間を8月3日まで延長すると発表。 |
7月31日 | ニチイ学館が、MBO価格を1,670円に引き上げ、買い付け期間を8月17日まで延長すると発表。 |
8月3日 | リム・アドバイザーズが、公正な価格(2,400円)を大幅に下回るため、ニチイ学館のMBOに応募しないと発表。 |
8月17日 | 投資ファンドのベアリングが、ニチイ学館や創業者の同意を条件に、1株2,000円でMBOを申し入れていたことを発表。 |
8月18日 | ニチイ学館によるMBOが成立。 |
よりわかりやすく、簡易的にまとめました。MBO関連の出来事と一緒に、そのときのMBO価格や、ニチイ学館がどういう態度を示したのかも載せています。
日付 (2020年) |
内容 | MBO 価格 |
ニチイ学館の 態度 |
---|---|---|---|
5月8日 | ニチイ学館がMBOを開始 | 1,500円 | 賛成 |
6月11日 | リム・アドバイザーズがMBOに反対 | - | - |
6月16日 | リム・アドバイザーズが買い付け期間の延長と公開討論を要求 | - | - |
6月22日 | ニチイ学館が買い付け期間を延長 | 1,500円 | 賛成 |
7月9日 | ニチイ学館が買い付け期間を延長 | 1,500円 | 賛成 |
7月31日 | ニチイ学館がMBO価格の引き上げ、公開買い付け期間を延長 | 1,670円 | 賛成 |
8月3日 | リム・アドバイザーズがMBOに応募しないと発表 | - | - |
8月17日 | ベアリングがMBOを申し入れ | 2,000円 | - |
8月18日 | ニチイ学館によるMBOが成立 | 1,670円 | 賛成 |
まとめ
ニチイ学館をめぐるMBOは、ニチイ学館のMBO成立で幕を閉じました。MBOの成立には、下限となる株数を集めることが必要です。今回のMBOでは、その下限のハードルが低かったのですが、エフィッシモの応募確約が決定打となりました。この確約により、わずかな株数を集めれば成立できるような状況になったのです。
経営陣は成立に自信があったため、反対していたリム・アドバイザーズや、より高いMBO価格を提示したベアリングを無視したと考えられます。 経営陣は株主の信任によって選ばれているため、本来はより高いMBO価格を示したファンドの内容を吟味する必要があります。
今回のMBOにおいて経営陣の行動は、“コーポレートガバナンスに問題がある”と言える出来事だったと思います。