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地政学リスクとは?日本が抱えるリスクについてもわかりやすく解説
テレビやニュースで「地政学リスク」というワードを耳にする機会が増えています。地政学リスクを象徴するできごととして、ロシアとウクライナの戦争や、ハマスとイスラエルの戦争などが挙げられます。
日本の近くでは、中国と台湾の関係性や、北朝鮮によるミサイル発射が地政学リスクとして存在しています。私たち日本人においても身近なものであり、地政学リスクへの注目度が高まっている状況です。
このコラムでは、地政学リスクとは何かや地政学リスクの例などを、わかりやすい言葉でていねいに解説します。ぜひ最後まで読んでくださいね。
地政学リスクとは?
地政学リスクとは、国や地域の政治的・軍事的・社会的・地理的な状況が原因で起こるリスクのことです。例えば、下の4つが地政学リスクの原因となります。
地政学リスクの例
- 国際的な紛争や戦争
- テロや内戦
- 経済制裁や貿易障壁
- 政策変更
上に挙げたことが発端で、その国の事業環境が大きく変化したり、軍事衝突に発展したりして、世界的な問題に発展することもあるのです。地政学リスクは、その国や地域だけに留まらず、世界経済全体の先行きを不透明にしてしまいます。
また、「地政学」という言葉は、「地理学」と「政治学」を組み合わせたものとなります。経済ニュースを説明する際によく登場する言葉ではあるものの、リスクが高まっている国や地域の地理的背景や政治的背景にも目を向けて考えなければいけません。
最近のわかりやすい例ですと、2023年に発生したハマスとイスラエルの戦争が挙げられます。
この戦争は、イスラエルの成り立ちをきっかけとした対立が火種となっており、軍事衝突につながりました。他の中東諸国を巻き込んだ戦争になれば、原油価格を高騰させ、世界的なインフレを加速させてしまうリスクがあります。このようなものが、地政学リスクなのです。
地政学は、日本において「禁止された学問」というイメージがあり、タブー視される傾向にあります。防衛省防衛研究所のブリーフィング・メモに、地政学がタブー視される理由について説明がありました。
現在の日本において、地政学と聞いて違和感を持つ人が多いであろう。それは、戦前日本の地政学が、ドイツ地政学を導入することにより、大東亜共栄圏を根拠付け日本の膨張政策を推進したとして、戦後GHQにより禁止され、その後、学会においてもネガティブなものとしてタブー視されたためである。
出典:地政学とは何かー地政学再考ー | 防衛省防衛研究所
このような歴史的背景があるものの、近年では地政学リスクの高まりが誰の目に見ても明らかな状態になり、注目する必要性が高まっています。
地政学リスクと地政学的リスクの違い
ネット上では「地政学リスク」と「地政学的リスク」の2つの言葉が存在します。「的」が入っている違いはありますが、どちらも同じ意味で使われているようです。
地政学リスクとカントリーリスクの違い
地政学リスクに近い言葉に、「カントリーリスク」があります。カントリーリスクは投資に関連した用語で、投資対象の国の経済や政治などが不安定であるために、投資対象国の証券市場や為替市場の混乱や価格下落に直面するリスクを指します。
カントリーリスクのほうが指す範囲が広く、地政学リスクはカントリーリスクに含まれるものと言えるでしょう。
地政学リスクが企業や経済に影響を及ぼした例
続いて、地政学リスクが顕在化した場合、企業や経済にどのような影響を及ぼすか事例を紹介しましょう。
記事を書いている2023年11月現在、ロシア・ウクライナ戦争が起きているヨーロッパや、ハマス・イスラエル戦争が起きている中東では、企業が撤退を余儀なくされたり、経済制裁や関係悪化により事業環境が悪化したりしています。
また、最近は落ち着いてきていますが、コロナ禍における中国の「ゼロコロナ政策」も、地政学リスクのひとつと言えるでしょう。中国には日本やアメリカなどに属する製造業の工場が集まっていましたが、ロックダウンによる工場封鎖などで供給網が混乱した過去があります。
今回は、企業が撤退を余儀なくされた例としてロシアを、国の経済状況が悪化した例としてドイツを、企業の事業環境が悪化した例として中国を紹介しますね。
事例 | 国 |
---|---|
企業が撤退した例 | ロシア |
国の経済状況が悪化した例 | ドイツ |
企業の事業環境が悪化した例 | 中国 |
企業が撤退した例:ロシア
企業が撤退した例としては、ロシアがわかりやすいでしょう。ロシアに拠点を持つ日本企業は多く存在していますが、日本政府による対ロ制裁や物流の混乱・停滞などを理由に、ロシアでの事業を停止する企業が増えています。
出典:在ロシア進出日系企業、事業停止が増加も撤退は一段落 | 日本貿易振興機構(ジェトロ)
国の経済状況が悪化した例:ドイツ
経済制裁や関係悪化により事業環境が悪化した例として、世界有数の製造業大国で知られるドイツを紹介します。ドイツの特徴として、ロシアから海底パイプライン「ノルドストリーム」経由で天然ガスを輸入しており、その輸入量は2020年時点でヨーロッパ内においてトップでした。
2022年にロシアとウクライナの戦争が勃発すると、ロシアはノルドストリーム経由の天然ガス供給量を減少させ、最終的に停止しました。この結果、エネルギー価格の上昇を背景に国内でインフレが進行してしまったのです。下のグラフはドイツのCPIの推移を表しており、2022年は前年比+6.9%と大きく上昇しています。
出典:Consumer price index | Statistisches Bundesamt (Destatis)
さらに、ドイツが属するEUの中央銀行であるECB(欧州中央銀行)が、EU内で進むインフレ対策のため金利を引き上げました。インフレの進行と金利の引き上げの影響から、ドイツでは企業の倒産件数が増えています。このことは、ドイツの企業倒産申請件数を表す下のグラフからも明らかです。
出典:Insolvency proceedings: Germany, monthes, proceedings filed, size classes of the expected claims | Statistisches Bundesamt (Destatis)
企業の事業環境が悪化した例:中国
国の政策が企業の事業環境にマイナスの影響を及ぼす例として、中国を紹介します。コロナ禍の中国では「ゼロコロナ政策」が展開され、上海市では大規模なロックダウン(都市封鎖)がおこなわれました。
この結果、中国国内の需要鈍化や工場停止によるグローバルサプライチェーンの混乱が引き起こされてしまったのです。中国に工場を持つ企業は、部品調達に難航したり、そもそも工場を稼働できなくなるといった事態に直面しました。
以上の経験から、複数の国に製造拠点を分散したり、製造拠点を国内回帰させる動きが出てきたのです。
地政学リスクの低い国や地域
地政学リスクがまったくない国や地域は存在しません。PwCのレポートによると、世界中で地政学リスクが存在していることがわかります。
出典:2023年主要地域における地政学リスク動向 | PwC Japan合同会社
その中でも、日本は地政学リスクをきっかけとして有事が起きるリスクが相対的に低いと考えられているようです。ただし、日本にも地政学リスクは存在します。どのようなものがあるのか紹介しますね。
日本が抱える地政学リスク
日本が抱える地政学リスクとして、以下の2つが挙げられます。
日本が抱える地政学リスク
- 中国と台湾の対立
- 北朝鮮によるミサイル発射
中国と台湾は、中国全体の支配権を主張して対立しています。万が一軍事衝突が起きた場合、日本も巻き込まれる可能性がゼロではないでしょう。
北朝鮮によるミサイル発射も、日本にとっては地政学リスクです。北朝鮮は不定期にミサイルを発射しており、日本国内に落下するリスクがあります。万が一落下してしまうと、一般市民に被害が出るかもしれません。
日本にもこのような地政学リスクが存在します。しかし、他の国からは相対的に見て政治的・経済的に安定している国と考えられているようです。
このことは、台湾の半導体大手企業であるTSMCが、日本の熊本県で新工場を建設していることからも読み取れます。
「日本は地政学的に最強」とまでは言えませんが、価値が高い国だと言えるでしょう。
まとめ
地政学リスクとは、ある特定の地域が抱える政治的・軍事的・社会的な緊張の高まりが、地理的な位置関係によってその地域や世界経済の先行きを不透明にするリスクのことです。
記事内でご紹介したように、足元では地政学リスクが顕在化し、企業の事業環境を悪化させたり、世界経済にマイナスの影響を及ぼしたりしています。ネットの世界では「地政学はエセ学問だ」「地政学はトンデモだ」といった意見を見かけますが、その重要度は高まっていると言えるでしょう。
投資家にとっても地政学リスクは重要です。どのようなリスクがあるかを頭に入れておき、投資先への影響を考えておくと良いでしょう。また、地政学リスクが高まったときに株価が上がりやすい防衛関連銘柄への投資も有効かもしれません。
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