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譲渡制限付株式報酬(RS)とは?メリット・デメリット、ストック・オプション(SO)との違いもわかりやすく解説

やさしい株のはじめ方編集部担当:やさしい株のはじめ方編集部

最終更新日:2025年3月28日

保有銘柄が「譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック、RS)」を導入すると発表することがあります。

譲渡制限付株式報酬(RS)とは、従業員や役員に対して、一定期間譲渡できない株式を報酬として付与する制度です。企業が優秀な人材を惹きつけ、長期的な業績向上を図るために導入が進められ、インセンティブとしての効果にも期待ができます。

この記事では、RSの仕組みからメリット・デメリット、実際の導入事例、よく似た「ストック・オプション(SO)」との違いまで、わかりやすく解説するのでぜひ参考にしてください。

譲渡制限付株式報酬(RS)とは?

譲渡制限付株式報酬(Restricted Stock[リストリクテッド・ストック]、RS)とは、一定期間の譲渡制限が付けられた株式が、報酬として企業の従業員・役員に付与できる制度です。

「一定期間の譲渡制限」が付いているので、報酬としてもらった株式を売るには、会社が設定した条件を満たす必要があります。主に条件として設定されるのは「期間」で、一般的には2年~3年程度です。また「業績目標の達成」や「勤続年数」が設定されることもあります。

譲渡制限付き株式報酬(RS)の譲渡制限期間
条件 内容
期間 企業の方針や目的により異なるが、一般的には2~3年程度
業績目標の達成 中期経営計画の目標を達成した場合に譲渡制限が解除される「業績条件」を設定するケースもある
勤続年数 一定の勤続年数(例:5年以上)を経過した場合に譲渡制限が解除される「勤務条件」を設けることもある

議決権や配当金を得られる点で、ストックオプション(SO)よりも優位性があるとされています。

譲渡制限付株式報酬の実施が材料となり、株価に大きな影響を与えるケースははあまりないでしょう。

では、投資家目線で譲渡制限付株式報酬(RS)のメリット・デメリットを解説するので、参考にしてください。

譲渡制限付株式報酬(RS)のメリット

譲渡制限付株式報酬(RS)のメリットを、企業と従業員・役員、投資家それぞれの目線でまとめました。

譲渡制限付き株式報酬(RS)のメリット
対象 メリット
従業員・役員 ・株価上昇が自分の報酬増加につながる
・通常の給与+株式報酬で総報酬が増える
・売却時に分離課税が適用される(条件あり)
企業 ・中長期的な業績向上を促進できる
・即時のキャッシュ流出を抑えられる
・付与した株式分の金額を損金算入できる(条件あり)
・離職防止・優秀な人材の流出を防げる
投資家・株主 ・株価向上を意識するため、長期的な企業価値向上が期待できる
・従業員の業績向上意識が高まり、利益成長につながる可能性が上がる

従業員・役員にとっては、株価が上がることで報酬が増え、企業にとっては中長期的な業績向上が期待できます。

特に、企業は即時のキャッシュ流出を抑えながら、優秀な人材の確保や離職防止ができる点が強みです。従業員側も、通常の給与に加えて株式報酬を受け取ることで、長期的な資産形成が期待できます。さらに、投資家にとっては、従業員の業績向上意識が高まることで、株価の安定や利益成長への期待ができるでしょう。

このように、譲渡制限付株式報酬は短期的な利益ではなく、長期的な企業価値向上を促す制度として注目されています。企業と従業員がともに成長し、それが投資家の利益にもつながる、三方よしの仕組みです。

譲渡制限付株式報酬(RS)のデメリット・注意点

譲渡制限付き株式報酬(RS)は、多くのメリットがある一方で、デメリット・注意点もあります。

対象 デメリット・注意点
従業員・役員 ・譲渡制限の解除時に給与所得として課税される
・売却益の譲渡所得として課税される(20.315%)
・譲渡制限期間中は売却できない
・株価が下落すると、期待していた報酬価値が減少する
・譲渡制限期間中に退職する場合、会社に無償で返却しなければならない
企業 ・新株発行による希薄化リスクがあり、EPS(1株当たり利益)が低下する可能性がある
・従業員の評価や成果と連動させる仕組みを作らないと、インセンティブとして機能しづらい
投資家・株主 ・新株発行により株式が希薄化し、株価が下落する可能性がある
・経営陣や従業員が大量に売却した場合、市場での需給バランスが崩れ株価に影響を与える
・株価が低迷するとインセンティブ効果が薄れ、期待される成長が実現しない

従業員にとっては、付与された株式の譲渡制限が解除されると給与所得として課税され、売却益を得ると利益の20.315%が譲渡所得として課税されるのは、注意しておいたいポイントです。

また、譲渡制限期間中は売却ができないため、急に現金が必要になっても株を換金できませんし、期間中に退職する場合は会社に無償で返却しなくてはいけません。さらに、株価が下がると、もらった時より価値が減ってしまうリスクもあります。

企業側では、新しく株を発行することで既存の株式が希薄化※1し、1株あたりの利益(EPS)が下がる可能性があります。株主への影響を考えながら、適切な制度設計をすることが大切です。

※1 株式の希薄化とは、市場に出回る株式の数が多くなり、希少性が失われることです。一般的に株式の希薄化が起こると、株価は下がる傾向にあります。

株式の希薄化は、投資家にとっても株価の下落につながるので注意が必要です。従業員がまとまった株を売却した際の需給バランスの変化や、株価が低迷すると、従業員のモチベーションが上がらず、期待した成長が実現しないことなども考えられます。

譲渡制限付株式報酬(RS)の事例

導入した5社の事例をまとめましたので、参考にしてください。

譲渡制限付き株式報酬(RS)を導入した企業事例
企業名 導入年 目的 対象者
三井化学(4183) 2017年※2 役員報酬制度の見直し、企業価値向上など 社外取締役を除く取締役
ユニ・チャーム(8113) 2020年※3 全社員のモチベーション、企業価値の持続的向上など 全社員
住友商事(8053) 2023年※4 株主価値の共有、サステナビリティ経営の高度化など 取締役
WOWOW(4839) 2024年※5 企業価値の持続的向上、株主との価値共有など 社外取締役を除く取締役、執行役員、理事
インソース(6200) 2025年※6 役員および子会社役員へのインセンティブ付与 取締役、執行役員、子会社役員

※2 参考:譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分に関するお知らせ(三井化学)
※3 参考:譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分に関するお知らせ(ユニ・チャーム)
※4 参考:取締役及び執行役員に対する譲渡制限付業績連動型株式報酬としての新株式発行に関するお知らせ(住友商事)
※5 参考:譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分に関するお知らせ(WOWOW)
※6 参考:譲渡制限付株式報酬としての自己株式の処分に関するお知らせ(インソース)

野村證券が公開した「株式報酬の活用促進に向けた有価証券届出書の開示規制の緩和について」によると、譲渡制限付株式報酬(RS)を導入している企業は、2023年4月11日時点で1,442社です。多くの企業が実施していますね。

譲渡制限付株式報酬(RS)の手続き

譲渡制限付株式報酬でおこなわれる手続きは、ざっくり次のとおりです。

譲渡制限付株式報酬の手続き

  1. 会社が従業員に「金銭報酬債権」を支給
    「あなたに100万円分の報酬を与えます」と約束
  2. 従業員・役員は、報酬としてもらった「債権」を会社に現物出資
    「100万円の報酬を、現金ではなく株でください」と債権で払い込みをする。現金のやり取りはなく、帳簿上で処理される
  3. 会社は同等の株式を発行し、譲渡制限を設定して従業員・役員に付与
    「100万円分の株式を発行して渡しますが、すぐには売れません」と、譲渡制限付きの株式が報酬として付与される

上記の手続きでは、実際の現金のやり取りは発生しませんが、従業員が「報酬として得た債権」を払い込みに使います。そのため、会社が「無償で付与している」というより、実質的には「報酬を株式で受け取る形」です。

一方、よく似た制度に「ストック・オプション(SO)」がありますが、こちらは「従業員が株を購入する形」になります。ストック・オプションとの違いもかんたんに解説するので、参考にしてください。

譲渡制限付株式報酬(RS)とストック・オプション(SO)の違い

ストックオプション(SO)とは、役員や従業員が、あらかじめ決められた価格で自社株を購入できる権利のことです。次の点で、譲渡制限付株式報酬と違いがあります。

譲渡制限付き株式報酬(RS)とストックオプション(SO)の比較
比較項目 譲渡制限付き株式報酬(RS) ストックオプション(SO)
付与形態 現物株式を付与 株式購入の権利を付与
譲渡制限 一定期間あり
(条件未達なら会社が回収)
なし
(権利行使すれば売却可)
税制上の扱い 制限解除時に課税
(給与所得課税)
権利行使時に課税
(給与所得課税)
コスト負担 なし 行使価格の支払いが必要
議決権 あり 権利行使後に取得
配当金 もらえる 権利行使後にもらえる

譲渡制限付株式報酬(RS)は、譲渡制限(売ることができない期間)があっても株式を保有していることに変わりがないので、議決権や配当金を受け取れるのが魅力です。税金は譲渡制限の解除時に給与所得として課税され、売却益は譲渡所得として課税されます。

一方、ストックオプション(SO)は会社の株を決められた価格で買うことができる権利なので、実際に株を買う(権利行使)までは議決権や配当金はありません。税金は、権利を行使するときに、市場よりも安く買えた分が給与所得として課税され、売却益は譲渡所得として課税されます。

まとめ

この記事では、譲渡制限付株式報酬(RS)について詳しく解説しました。RSは、一定期間譲渡できない株式を報酬として付与する制度で、企業・従業員・投資家それぞれにメリットがあります。

配当や議決権が得られる点や、長期的な企業価値向上が期待される点が魅力ですが、譲渡制限や課税、株式の希薄化などの注意も必要です。

RS制度の特徴を理解し、メリット・デメリットを踏まえて今後の投資判断に役立ててくださいね。

やさしい株のはじめ方編集部

この記事の執筆者

やさしい株のはじめ方編集部 

FP2級や証券外務員二種、日本証券アナリスト協会検定会員補を持つ複数のメンバーが「株初心者の方に株式投資をわかりやすく理解していただく」をモットーに、記事を執筆しています。

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