悪魔の増資!MSワラントの仕組み

悪魔の増資!MSワラントの仕組み

上場企業が資金調達をする方法は、一般的に2種類あります。
1つは、新たに株を発行して投資家から資金を集める「公募増資」、もう1つは「銀行からの借り入れ」です。 しかし、赤字が続く企業は信用力が落ちているので、これらの方法では資金調達ができません。そこで、やむを得ず「特典をつけて安くするから、株を買ってください!」といって、買い手(引受先)がお得になる条件をつけた、株を買う権利を発行します。これが「MSワラント」です。

タイトルに「悪魔の増資」と書きましたが、最大の理由は、すでに投資をしている株主が損をする増資だからです。そして、引受先である証券会社などが、確実に利益を得られるようになっています。投資家にとってデメリットが多いので、「悪魔の錬金術」ともいわれています。

MSワラントの仕組み

MSワラントとは、「Moving Strike Warrant(ムービング・ストライク・ワラント)」の略で、日本語に直すと「行使価格修正条項付新株予約権」です。要約すると、「前日の株価終値よりも安い価格で購入できるように、毎日購入価格を修正する新株予約権」となります。

つまり、前日終値が1,000円の日は900円で新株を購入でき、前日終値が900円に下がってしまったときは810円で新株を購入できる、というしくみです。MSワラントを引き受けるのは主に証券会社なので、証券会社にとって有利な条件を付けたものとなっています。

それでは、MSワラントを発行する具体的な手順の例を見ていきましょう。

  • ①株価1,500円の会社が、「発行価格決定日の株価×0.9」で、証券会社に対してMSワラントを発行することを発表
  • ②証券会社はMSワラントで手に入れる予定の新株1,000株分だけ空売りして、MSワラントの発行価格決定日までに株価を1,500円から1,000円に下げておく
  • ③発行価格決定日の株価1,000円をもとに発行価格が900円に決まり、証券会社は900円で新株1,000株を手に入れる
  • ④空売りの返済に、900円で手に入れた新株を充てる
  • ⑤証券会社は、600円(=1,500円 - 900円)×1,000株=60万円の利益が手に入る

このように、証券会社は最終的に60万円分の利益を確実に手に入れることになります。

既存株主にとっては、②のタイミングで株価が1,500円から1,000円に下がるため、1,000株持っていた場合には、500円×1,000株=50万円もの損をします。さらに、証券会社が新株を取得した直後に株式市場で売ってしまうため、株価が下がってしまいます。極めつけには、発行済み株式数が増えることで、「1株あたりの利益」が小さくなってしまう(希薄化する)ため、「1株あたりの利益×市場の期待(PER)」で計算される株価が下がっていきます。

2018年にMSワラントをおこなった銘柄事例

発表日 銘柄コード 銘柄名 割当先
2018/12/20 3356 テリロジー EVO Fund
2018/12/18 3844 コムチュア 野村證券
2018/12/17 7199 プレミアグループ 野村證券
2018/12/11 2160 ジーエヌアイグループ CVI Investments, Inc.
2018/12/10 3689 イグニス 株式会社QK
株式会社SK
佐藤祐介
2018/11/30 7745 エー・アンド・デイ みずほ証券
2018/11/22 3556 リネットジャパングループ モルガン・スタンレーMUFG証券
SBI証券
2018/11/15 3276 日本管理センター モルガン・スタンレーMUFG証券
2018/11/9 4586 メドレックス バークレイズ・バンク・ピーエルシー
2018/11/8 8789 フィンテックグローバル バークレイズ・バンク・ピーエルシー

以上が、2018年にMSワラントを発行した企業の直近10銘柄です。MSワラントといえば「バイオ企業のお家芸」といわれるほど、バイオ企業が乱発するイメージがあります。赤字の会社が多いため、通常の資金調達方法をおこなえないからです。最近はバイオ企業に限らず使われているようです。これらの会社は、既存株主に平気で損をさせる会社です。決して手出しをしないようにしましょう

2018年11月8日より前にMSワラントを発行した企業については、MSワラント発行企業リストにまとめました。詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

日本一ソフトウェア(3851)が2019年6月4日にMSワラントを発行し、6月13日に「役員報酬の上限を引き上げる」というニュースで話題になり、株価が下がりました。その騒動の真相について、「MSワラント発行の日本一ソフトウェアが役員報酬の上限を引き上げ!」でわかりやすく解説しています。

「MSワラント」と「公募増資」の比較

MSワラント 公募増資
既存株主にメリットがある
発行企業が確実に
資金調達できる

MSワラントと公募増資を比較しました。

一番の問題は、MSワラントをおこなうと、公募増資をおこなったときよりも株価が下落することです。理由は、MSワラントの場合、株を取得したら保有せず、すぐに市場へ売ってしまうからです。市場に出回る株数が増えるため、株価が下落します。

さらに、資金調達にも差がでます。

例えば、企業が100株発行したとします。公募増資の場合、株価が1,000円だと10万円の増資となります。しかし、MSワラントの場合、株価が1,000円でも「1割引」の特典をつけていたら、9万円分しか増資できません。

MSワラント 公募増資
増資額 9万円
(=株価1,000円×100株×0.9)
10万円
(=株価1,000円×100株)

※公募増資は、増資があった直後は株式の希薄化が起きるため株価が下がります。そのため、短期的にみれば既存株主に損がでます。しかし、企業は公募増資で調達したお金を使って投資をするため、長期的に見て、その投資がうまく行けば、企業の価値が上がっていき、株価上昇にもつながります。

MSワラントを発行した企業の、株価チャートの動き

(出典:GMOクリック証券

今回は、2018年5月22日にMSワラントの発行を発表した「エリアリンク(8914)」の株価チャートを例にとります。

これを見ると、MSワラントの発行を発表した2018年5月22日を境に、MSワラントと新株の交換が終わる2018年11月12日にかけて株価が下がり続けていることがわかります。5月23日に大きく下げているのは、MSワラントの発行を知った既存株主が一斉に株を売ったからです。

そのあとの下げは、エリアリンクのMSワラントを引き受けたSMBC日興証券が、MSワラントを行使して新株を手に入れるたびに株式市場で売り続けたことが影響しています。

その結果、エリアリンクの当期純利益を発行済み株式数で割った「1株あたりの利益」が小さくなってしまい、「1株あたりの利益×市場の期待(PER)」で計算される株価はどんどん下がっていくことになりました。

この期間中にエリアリンクの株を持っていた既存株主は、損をふくらませることになっています。5月21日の終値は4,050円でしたが、MSワラントの行使が終わった11月12日の終値は1,636円なので、既存株主は100株あたりおよそ24万円も損している計算になります。

まとめ

MSワラントは、発行した企業の既存株主が損をする「悪魔の錬金術」です。

MSワラントが発行されると、

  • ①MSワラントを嫌気した株主の売りが出る
  • ②発行済株式数が増えることで「1株あたりの利益」が希薄化する
  • ③MSワラントを引き受けた証券会社の空売りで株価が下がる

によって、株価が大幅に下がってしまいます。

過去に一度でもMSワラントを発行したことがある企業は、既存株主をないがしろにしています。今後も発行する可能性が高いので株式を買わないようにしましょう