MSワラントとは?仕組みをわかりやすく解説します

担当:やさしい株のはじめ方編集部

担当・やさしい株のはじめ方編集部

最終更新日:2021年10月15日

MSワラントとは、上場企業の資金調達のひとつです。かんたんに言うと、市場に出回っている株よりも安くてお得に買える権利を発行して、お金を調達する方法(エクイティ・ファイナンス)です。このページでは、MSワラントの仕組みや、一般的な資金調達「公募増資」との違いなどについて、わかりやすく紹介します。

MSワラントの仕組み

MSワラントとは、「Moving Strike Warrant(ムービング・ストライク・ワラント)」の略で、日本語に直すと「行使価格修正条項付新株予約権」です。要約すると、「前日の株価終値よりも安い価格で購入できるように、購入価格を修正する新株予約権」となります。

つまり、前日終値が1,000円の日は900円で新株を購入でき、前日終値が900円に下がってしまったときは810円で新株を購入できる、というしくみです。MSワラントを引き受けるのは主に証券会社なので、証券会社にとって有利な条件を付けたものとなっています。

それでは、MSワラントを発行する具体的な手順の例を見ていきましょう。

  • ①株価1,500円の会社が、「発行価格決定日の株価×0.9」で、証券会社に対してMSワラントを発行することを発表
  • ②証券会社はMSワラントで手に入れる予定の新株1,000株分だけ空売りして、MSワラントの発行価格決定日までに株価を1,500円から1,000円に下げておく
  • ③発行価格決定日の株価1,000円をもとに発行価格が900円に決まり、証券会社は900円で新株1,000株を手に入れる
  • ④空売りの返済に、900円で手に入れた新株を充てる
  • ⑤証券会社は、600円(=1,500円 - 900円)×1,000株=60万円の利益が手に入る

このように、証券会社は最終的に60万円分の利益を確実に手に入れることになります。

既存株主にとっては、②のタイミングで株価が1,500円から1,000円に下がるため、1,000株持っていた場合には、500円×1,000株=50万円もの損をします。さらに、証券会社が新株を取得した直後に株式市場で売ってしまうため、株価が下がってしまいます。

そして、発行済み株式数が増えることで、「1株あたりの利益」が小さくなってしまう(希薄化する)ため、「1株あたりの利益×市場の期待(PER)」で計算される株価も下がっていきます。

「MSワラント」と「公募増資」の違い

MSワラントと公募増資(株を発行して資金調達する一般的な方法)を比較しました。

MSワラント 公募増資
既存株主にメリットがある
発行企業が確実に
資金調達できる

一番の違いは、MSワラントをおこなうと、公募増資をおこなったときよりも株価が下落することです。理由は、MSワラントの場合、株を取得したら保有せず、すぐに市場へ売ってしまうからです。市場に出回る株数が増えるため、株価が下落します。

さらに、資金調達にも差がでます。例えば、企業が100株発行したとします。公募増資の場合、株価が1,000円だと10万円の増資となります。しかし、MSワラントの場合、株価が1,000円でも「1割引」の特典をつけていたら、9万円分しか増資できません。

MSワラント 公募増資
増資額 9万円
(=株価1,000円×100株×0.9)
10万円
(=株価1,000円×100株)

有識者の見解

MSワラントについては、有識者の方々の見解もみると、より理解が深まると思います。参考になる記事を一部引用して掲載しますので、合わせてご覧ください。

MSワラントは大手証券など引受先が必ず儲かり、既存株主が損をする資金調達の仕組みです。 しかるに投資先がMSワラントを発行すれば、直ちに売却する必要があります。なぜならMSワラントの引受先は、前日終値より安い株価(92%など)で新株を手に入れる権利を持っているからです。

当然、新株を株式市場で直ぐに売却すれば“濡れ手で粟”で儲かります。一方でMSワラントを発行した企業の株価は、新株が次から次へと売られるため、株価の下がり続けるケースが大半です。一番、割を食うのは既存株主です。

(出典:MSワラント発行企業の株は売却すべき?仕組みや事例を解説|株式投資スクール講師が答えます

MSワラントは仕組みが複雑であること、行使期間が長期にわたることが多いことから、投資家に嫌気されることが多く、日経新聞によれば、昨年9月から今年3月16日までに発行を発表した54社のうち6割の34社で株価が下落しています。MSワラント発行に際しては、なぜMSワラントでなければならないかなど、投資家に対して十分な説明責任が求められるでしょう。安易な発行が増えれば、投資家の信頼を損ないかねないのは確かです。

(出典:MSワラントは悪魔の資金調達なのか | オントラック

公募増資や他のエクイティ・ファイナンスを選択できない企業が,MSワラントを選びがちであるという結果からは2つの論点がある。1つはゾンビ企業といった不適切な企業の退出を遅らせ,社会にとって望ましくないという議論と,企業と市場間の情報の非対称性が高く企業の将来性を市場が見抜けない企業に対して資金が供給され,社会にとって望ましいという議論である。

長期パフォーマンスが悪いという結果からは,情報の非対称性が高く企業の将来性を見抜けない企業に資金が供給される効果は強いとは言えない。しかしながら,約20%の企業ではMSワラント発行の2年後に企業価値が改善していることを忘れてはならない。

MSワラントが,情報の非対称性の問題は大きいが有望な投資案件に対し,資金が供給される仕組みとして用いられがちになることが望まれる。

(出典:MSワラントの発行要因と株価リターン | 日本証券経済研究所[PDF]

2021年にMSワラントをおこなった銘柄事例

2021年にMSワラントを発行した企業の直近銘柄をまとめました。その他、過去にMSワラントを発行した企業については、「MSワラント発行企業リスト」にまとめています。

2018年ごろは、業績が思わしくなく、すでに他の調達手段が期待できない、「ゾンビ企業」のような会社がこぞって、MSワラントによる調達を採用してきましたが、近年では財務にさほど問題があるわけではない、いわゆる「優良企業」でも、この手法を取るようになりました。

発表日 銘柄名
(銘柄コード)
希薄化率 割当先
2021/10/15 クリングルファーマ
(4884)
23.08% バークレイズ・バンク・ピーエルシー
2021/10/13 JFLAホールディングス
(3069)
20.12% SBI証券
2021/10/12 ゲームカード・ジョイコHD
(6249)
6.74% SBI証券
2021/10/8 キムラタン
(8107)
24.20% Japan International Partners LLC、Nippon Opportunity Management LLC
2021/9/17 アルメディオ
(7859)
24.79% マイルストーン・キャピタル・マネジメント
2021/9/13 ダイト
(4577)
9.48% 大和証券
2021/9/10 岡本工作機械製作所
(6125)
14.80% 大和証券
2021/9/8 サイバーステップ
(3810)
24.79% マッコーリー・バンク・リミテッド
2021/9/2 キャンバス
(4575)
91.33% 投資事業有限責任組合
インフレクションⅡ号Ⅴ、
InfleXion Ⅱ Cayman, L.P.

資金調達にMSワラントを採用するのは、「公募増資より手続きや審査等が楽だから」、「公募増資は証券会社が首を縦に振ってくれないと実施できない」、「小粒の案件では、証券会社の実入りが少ないため引き受けてもらいにくい」、といった理由があるようです。

当然、「優良企業」のMSワラントによる資金調達の場合、調達にかかるコストはさておき、そこで調達した資金を使って企業価値を向上させることは可能であるため、長期的には株価上昇がみられる可能性があります。重要なのは、「なぜ、数ある資金調達の中でMSワラントによる資金調達を選んだのか?」であると思います。

MSワラントのリリースを見て気になった方は、思い切って企業のIR(投資家向け広報)に確認してみましょう。

まとめ

MSワラントについて簡単にまとめました。希薄率が高く、権利行使の下限価格も著しく低いMSワラントもあるので、良いワラントか、悪いワラントかをしっかり見極めて、投資判断をするようにしましょう。

<MSワラントのまとめ>

  • ①株発行をともなう増資なので、発行済株式数が増えて、「1株あたりの利益」が希薄化する
  • ②短期的には、MSワラントを嫌った既存株主が売り注文を出しやすい
  • ③長期的には、企業価値の創造(業績拡大など)によって変動する

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この記事の執筆者

やさしい株のはじめ方編集部
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