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世界が肥満症治療薬に熱視線!関連米国株イーライ・リリーやアムジェンにも注目
肥満治療薬とは、その名のとおり慢性的な肥満を、医学的に治療するための薬です。「肥満症」治療薬市場は、今や「がん」治療薬と並ぶ巨大な潜在市場に位置づけられています。
そこで、この記事では巨大な肥満症治療薬市場や、アメリカの関連銘柄であるイーライ・リリー
世界の肥満症治療薬市場は巨大な潜在市場
世界肥満連合(WOF)は、肥満防止の措置を講じなければ、2035年までに世界の人口の半数以上が「肥満(BMIが25以上)」または「過体重」に分類されると予想しています。
また、BMIが30を超える肥満の人は、2020年時点で世界に約10億人、2035年には2倍弱の19億人に増える見込みであり、その市場の大きさを伺えるでしょう。
WOFによると、2035年までに肥満がもたらすコストは年間4兆ドル(約600兆円)超に上る見込みです。
<体重過多または肥満の人(5歳以上)の数と人口に占める割合>
(出典:世界肥満連合を基に筆者作成)
なお、肥満の判定基準は国によって異なり、WHO(世界保健機構)の基準はBMIが30以上を肥満とし、日本肥満学会の基準は25以上を肥満と定義しています。
何らかの肥満防止策を講じなければ、甚大な経済損失が見込まれる中、肥満症治療薬市場が急拡大すると予想されています。
ウォール街のアナリストによる期待値も高く、例えば、米モルガン・スタンレー・リサーチによると、2022年に24億ドルだった世界の肥満症治療薬市場が、2030年には770億ドルと、実に32倍にも膨れ上がる見込みです。
<世界の肥満症治療薬市場は急成長する見込み(億ドル)>
(出典:モルガン・スタンレー・リサーチを基に筆者作成)
開発競争も熾烈(しれつ)であり、現在は、世界に先駆けて肥満症治療薬の販売に漕ぎ着けたデンマークのノボ・ノルディクスが先行者利益を享受しています。株式市場からの評価も高く、2024年2月16日時点の時価総額ベースで欧州トップに君臨している状況です。
ノボの肥満症治療薬「ウゴービ」は、米起業家のイーロン・マスク氏やハリウッドのセレブなどが利用し、瞬く間に人気が高まっています。2023年12月期決算では、ウゴービの売上高が前期比5倍強と同社の業績拡大のけん引役となりました。ちなみに、日本では2024年2月22日よりウゴービを公的保険の適用対象にすることが決まっています。
ノボに続くのが米製薬大手のイーライ・リリーです。2023年11月に米食品医薬品局(FDA)が肥満症治療薬「ゼプバウンド」を新薬承認し、12月より米国内の薬局で販売が始まったばかりですが、販売額はすでに約260億円に上り、好調な滑り出しとなりました。
その他にも、米アムジェンや米バイキング・セラピューティクス、独ベーリンガーインゲルハイム、中外製薬などが同様の薬の開発を進めています。一方、米ファイザーが肥満症治療薬「ロチグリプロン」および「ダヌグリプロン」の開発を中止するなど、市場への参入が容易ではないと言えるでしょう。ロチグリプロンの開発中止を受け、提携先のネクセラファーマ(4565)が制限値幅の下限(ストップ安水準)まで売り込まれました。
時価総額で世界最大のヘルスケア企業に躍り出たイーライ・リリー
今回のレポートでは、肥満症治療薬の関連プレーヤーの中でも、直近の決算が好調で株価が1年で2倍に値上がりしているリリーを紹介します。
同社は約150年の歴史を誇る米製薬大手です。世界で初めて糖尿病治療薬「インスリン」の大量生産に成功するなど、高い研究開発力を強みとしています。
以下のとおり、2022年の売上高ベースでは世界第12位の規模です。しかしながら、時価総額ベースでは世界最大のヘルスケア企業であり、成長期待を背景に株式市場から高い評価を得ていることがわかります。
<世界の製薬会社の売上高ランキング(2022年、億ドル)>
(出典:Fierce Pharmaを基に筆者作成)
2024年1月25日には、リリーが時価総額で電気自動車(EV)大手テスラを追い抜きました。その高い成長期待から、リリーをテスラに代わる「マグニフィセント・セブン」の一角として推す声も挙がっています。
リリー株は史上最高値を更新する展開が続いている状況です。その要因の1つが、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」でしょう。
GIPとGLP-1は、食事を摂ると小腸から分泌されるホルモン(インクレチン)で、食事によって血糖値が上がったときのみ働きます。GLP-1受容体は膵臓のほか、胃、脳にも存在しており、チルゼパチドを投与することで、血糖値を下げるだけでなく、体重管理にも有効です。
2023年7月には、チルゼパチドの第3相試験(後期臨床試験)で患者の体重が平均で26%減ったと発表しました。これはウゴービよりも高い体重減少作用となります。
チルゼパチドは治療目的に応じて名称が変わり、2型糖尿病用注射薬として「マンジャロ」を、肥満症治療薬として糖尿病治療薬を転用したゼプバウンドを販売しています。
マンジャロの2023年10~12月期売上高は22億560万ドルと、すでにブロックバスター(年間売上高が10億ドルを超える大型薬)に成長しており、同社の業績拡大をけん引役となっている状況です。その他にも、乳がん治療薬「ベージニオ」や糖尿病薬「ジャディアンス」の販売も好調に推移しました。
研究開発型企業のリリーは、ブロックバスター候補となるパイプライン(新薬候補)を豊富に揃えています。特に、アルツハイマー病薬「ドナネマブ」は、治験で効果のない偽の薬(プラセボ)を投与した患者に比べ、認知機能の低下を1年半で35%遅らせる効果があったと発表されました。同薬は2024年1〜3月期にFDA承認を見込んでいます。
マンジャロとゼプバウンドの販売拡大に加え、2025年にドナネマブの本格展開も期待できるでしょう。
出典:DAVE RICKS Chair and CEO, Eli Lilly and Company[PDF]
イーライ・リリーの業績、株価動向
ここからは、リリーの業績や株価動向を見ていきます。
2018年から2022年までの5年間で、売上高、希薄化後1株あたり利益(EPS※2)共に順調に拡大しました。
※2 EPSとは、「Earnings Per Share」の略で、企業の「収益力」と「成長力」を評価する際に使われる指標の1つで、1株あたりの利益がどれだけあるのかを示すものです。基本的に数値が高いほど企業の収益力は高いと判断することができます。
収益性の高さは目を見張るものがあります。
イーライ・リリーの業績、株価動向
- 売上高は246億ドルから285億ドルへ(16%増)
- 希薄化後EPSは3.13ドルから6.19ドルへ(97%増)
- 5年平均の粗利益率は76%
- 5年平均の自己資本利益率(ROE※3)は98%
- 5年平均の投下資本利益率(ROIC※4)は28%
※3 ROE(アールオーイー)とは、株主が出資したお金を元手に、企業がどれだけの利益を上げたのかを数値化したもので、企業がどれぐらい効率良くお金を稼いでいるかを示す財務指標です。
※4 ROIC(アールオーアイシー)とは、企業が事業活動のために投じた資金を使って、どれだけ利益を生み出したかを示す指標です。
2018年から2022年までの5年間の株主総利回り(TSR※5)は、競合グループおよびS&P500を大幅に上回りました。競合グループは、アッヴィ、アムジェン、アストラゼネカ、ブリストルマイヤーズスクイブ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、メルク、ノボノルディスク、ファイザー、武田などで構成されています。
※5 TSR(ティーエスアール)とは、投資家に対する総合的なリターン(値上がり益+配当金)を測定する指標です。
出典:Eli Lilly and Company 2022 Annual Report on Form 10-K[PDF]
今後の株価動向についてはアナリストの目標株価を確認しましょう。24名のアナリストによるコンセンサス・レーティングは「Strong Buy(強い買い推奨)」です(2024年2月16日から遡って過去3か月間の評価)。
目標株価の平均値(12か月後)は778.45ドルであり、2月16日終値(782.06ドル)はすでに目標株価の平均を上回っています。アナリスト予想の最高値は950ドル、最安値は610ドルです。
出典:Nasdaq[PDF]
今後の四半期決算で、マンジャロやゼプバウンドの販売額が市場予想を上回る強い需要が確認できれば更なる上値余地があるでしょう。また、肥満が引き起こす心疾患や脳卒中、高血圧などの疾病リスクを減らすことができることを証明するための臨床試験で良好な結果が得られれば、それも市場でポジティブな反応が見られるのではないでしょうか。
リリーの高い成長期待から目標株価を引き上げるアナリストも出てくることが予想されます。実際、ソシエテ・ジェネラル、ジェフリーズ、バークレイズなど複数のアナリストが目標株価を引き上げました。2月16日には、モルガン・スタンレーがリリーの目標株価をウォール街で最も高い水準となる950ドルに引き上げています。
リリーが販売拡大を目指す肥満症と糖尿病は市場の大幅な拡大が見込まれており、これらの治療薬の販売が業績拡大をけん引することで、更なる株主価値の向上が期待できるでしょう。