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ADRの株価があてにならない理由とは?ADRが上がる(下がる)と日本株に影響があるのかも解説
ADR(米国預託証券)とは、米国株式市場で取引できる日本や中国、インドなどの外国株式を指します。日本語で「米国預託証券」と呼ばれ、厳密には株式ではなく“株式を基に発行した証券”です。日本株からは、トヨタ自動車や任天堂といった世界的に有名な企業が、ADRとして米国株式市場に上場しています。
このため、“米国株式市場と日本の東京株式市場は取引時間が異なる”という性質を使えば、「ADRが上がった場合(下がった場合)に日本株を買う(売る)」という手法で利益が得られそうな気がしますよね。しかし、ADRの価格を使って日本株の動向を占おうとしても、あてにならないことが多いのです。
このコラムでは、ADRの株価があてにならない理由や、ADRの取引におすすめの証券会社などを、株初心者向けにわかりやすく解説します。
ADRの株価があてにならない理由
日本株のADRは、東京株式市場に上場している日本株を基に発行しています。このため「ADRが上がる(下がる)と日本株も上がる(下がる)」ように思えますよね。しかし、ADRの価格は、日本株の株価動向を予想するうえであまり役に立ちません。理由は下の4つです。
ADRの価格があてにならない理由
それぞれ理由を説明します。
①ADRは株式ではない
1つ目の理由は「ADRは株式ではない」ことです。ADRと株式はどちらも配当や議決権がもらえる点でよく似ていますが、その実態は異なります。このことを理解するためには、ADRの仕組みを理解しなければなりません。
ADRを発行する際には、以下の3つの手順を踏みます。
ADRを発行する手順
- C銀行が現地でB社の株式を買い付け、現地の銀行に保管する
- C銀行が現地の銀行に保管したB社の株式に対する「預り証(ADR)」をアメリカ国内で発行する
- C銀行がB社株式のADRを上場させる
投資家目線から見ると、インドにあるB社株を取引するため、C銀行に対して「代わりにB社株を買って欲しい」と依頼します。C銀行は実際に現地でB社株を購入しますが、米国には持ち帰れないので、現地の銀行に保管しなければなりません。その代わり「あなたが買ったB社株はC銀行が責任を持って預かっていますよ」という証明書(預かり証)を発行するのです。
この預かり証が「ADR」となります。つまり、ADRは株式そのものではないのです。
②ADRと日本株は取引主体の性質が異なる
2つ目の理由は「ADRと日本株は取引主体の性質が異なる」というものです。ADRは「米ドルで日本株などの外国株を取引したい米国の投資家」が取引主体となります。
日本人であっても、ADRとして上場している日本企業を取引可能です。しかし、国内の証券会社経由でトヨタ自動車や任天堂などの日本株を気軽に取引できるのに、わざわざ日本円を米ドルに替えて、管理費用が掛かるADRを取引しようとは思わないでしょう。
したがって、ADRは“米ドル建てで日本株を取引したい投資家”が取引主体と考えられるのです。基本的に彼らの需給がADRの価格を動かすことになるため、日本株の株価とのずれが生まれてしまいます。
③ADRは為替の影響を受ける
3つ目の理由は「ADRは為替の影響を受ける」点です。ADRは米ドル建てで取引されるため、ドル円の為替レート変動がADRの価格に影響を与えます。これによって、ADRの価格変動と日本株の株価変動に差が生まれてしまうのです。
④ADRと日本株は取引時間が異なる
4つ目の理由は「ADRと日本株は取引時間が異なる」ことです。日本時間で考えると、日本株は9:00~11:30、12:30~15:30の間で取引できますが、ADRは23:30~翌朝6:00(サマータイムは22:30~翌朝5:00)で取引されます。
この時間差により、米国の取引時間終了後から日本の取引時間開始前までに重大なニュースやイベントが発生した場合、ADRと日本株の株価にはギャップが生じる可能性があるのです。
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ADRでの取引でおすすめの商品を紹介
ADRで取引するのにおすすめの商品を紹介します。この記事を読んでくださっている方の多くは日本人投資家でしょう。日本人向けのADR活用法として、下の3パターンがあります。
ADRで取引するのにおすすめの商品
それぞれ説明しますね。
①外国人に取引規制が掛かっている株式
おすすめ商品の1つ目は「外国人に取引規制が掛かっている株式」です。具体的には、中国本土株やインド株、ブラジル株が挙げられます。これらの国の株式には取引規制が掛けられており、外国人が直接投資することはできません。しかし、ADRとして米国株式市場に上場しているものについては取引できます。
特にインド株には、人口増加による恩恵を受けて成長している企業が多くあります。ADRを経由すれば、“インドのような成長市場でビジネスを展開している優良企業”に投資可能です。成長市場の恩恵を受けられるので、ぜひ活用したいですね。
②世界的な有名企業の株式
2つ目は「世界的な有名企業の株式」です。ADRとして上場する企業の中には、世界的に有名な企業がたくさんあります。例えば、欧州株のADRに注目すると、下のような有名企業が取引可能です。
| 銘柄名(ティッカー) | 国 | 事業内容 |
|---|---|---|
| アーム・ホールディングス (ARMH) |
イギリス | スマホ向けCPUの設計などをおこなうハイテク企業 |
| アンハイザー・ブッシュ・ インベブ (BUD) |
ベルギー | 「バドワイザー」で有名なビールメーカー |
| ASMLホールディングス (ASML) |
オランダ | 半導体製造装置メーカー大手 |
| ユニリーバ (UL) |
イギリス | ヘアケアの「Lux」や紅茶の「Lipton」で有名な企業 |
| トリバゴ (TRVG) |
ドイツ | 格安ホテル・旅館の料金比較サイトを運営 |
このように、ADRを活用すると世界中の有名企業に投資できます。日本株や米国株に留まらず、世界中から好きな銘柄をピックアップして投資できるのは、とてもワクワクしますね。
③日本株のオプション取引
3つ目は、日本株のオプション取引です。ADRを使うと少額からオプション取引に挑戦できるメリットがあります。
オプション取引とは、株式を買ったり売ったりする権利の取引です。具体的には、「一定期間経過した日(満期日)に、任意の価格(権利行使価格)で、買ったり売ったりする権利」となります。買う権利のことを「コール」、売る権利のことを「プット」と呼びます。
これらの権利は放棄することもできるので、株式投資における「保険」として使えます。
オプション取引の事例
オプション取引は、株価の上昇による恩恵を受けつつ、損失を抑えたいときに役立ちます。
例えば、新製品発表会を控えたメーカーへの投資を考えましょう。現在の株価は1株5,000円で、新製品の評判がよければ株価は1か月後に7,000円に上昇し、評判が悪ければ株価は3,000円まで下落する見込みです。
| 7,000円に上昇 | 3,000円に下落 | |
|---|---|---|
| 損益 | +20万円 | ▲20万円 |
通常の株式取引では、現在の株価5,000円で100株買うことになります。株価が7,000円に上昇すれば20万円の利益が得られますが、3,000円に下落した場合は20万円の損失です。
ここで「1か月後に5,500円で株式を買う権利(コール)」を2万円で購入する場合を考えます。株価が7,000円に上昇した場合の利益は13万円※となり、通常の株式取引より儲けは少なくなります。しかし、株価が3,000円まで下落した際、その権利を放棄できるので、損失はコール購入額の2万円で抑えられるのです。
※「株価の値上がり益15万円-コール購入額2万円=利益13万円」という計算です。
| 7,000円に上昇 | 3,000円に下落 | |
|---|---|---|
| 損益 | +13万円 | ▲2万円 |
このように、コールを活用することで、株価が上昇した場合に利益を確保しつつ、一定額以上の損失が出ないようにできるのです。
オプション取引に必要な金額
日本株のオプション取引は、通常の株式取引と同じで「100株単位」の取引となります。一方、ADRのオプション取引は「1株単位」で取引可能です。このため、元手資金が少ない方でも1株からオプション取引に挑戦できます。
先ほど紹介した例のように、株価が大きく動きそうなイベントがあり、イベントの結果次第で儲けられるかもしれないと考える方は、1株からオプション取引ができるADRを活用するのもよいでしょう。
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ADRを取引できる証券会社
ADRを取引できる証券会社を紹介します。基本的にADRは米国株と同じように取引可能です。米国株の取引手数料や為替手数料が低い証券会社や、ADRの情報収集や分析、取引に適したツールを提供している証券会社を下の表にまとめました。
| 証券会社名 | 取引手数料 (税込) |
為替手数料 (1ドルあたり) |
おすすめツール |
|---|---|---|---|
| moomoo証券 | 0.132% (最低0米ドル※1) (上限22米ドル) |
無料 | moomooアプリ |
| ウィブル証券 | 0.2% (上限22米ドル) |
15銭 | ウィブルアプリ・ Moneybull |
| マネックス証券 | 0.495% (最低0米ドル※2) (上限22米ドル) |
無料 | 銘柄スカウター 米国株 |
| SBI証券 | 米国株アプリ | ||
| 楽天証券 | iSPEED | ||
| PayPay証券 | 0.5~0.7%※3 | 35銭 | - |
※1 約定代金が8.30米ドル(約1,300円)以下の場合は手数料が無料になります。
※2 約定代金が2.22米ドル(約350円)以下の場合は手数料が無料になります。
※3 日本時間23:30~6:00(夏時間22:30~5:00)は0.5%、それ以外の時間帯は0.7%となります。
このうち、特におすすめなのはmoomoo証券とウィブル証券です。それぞれ詳しく説明しますね。
moomoo証券
moomoo証券は、米国株の取引に強い証券会社です。取引手数料が最も安く設定されており、お得に取引できます。さらに、moomoo証券が提供している「moomooアプリ」には、米国株の分析に必要な財務指標や株価指標などがたくさん掲載されています。誰でもプロ並みの分析ができる点が魅力の証券会社です。
また、moomooアプリはADRの情報も充実しています。具体的には、最新決算のまとめ、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表、各企業の重要経営指標(TSMCであればウエハー出荷量など)をチェック可能です。
moomooアプリを使わない場合、ADRとして上場している台湾株やインド株を分析する際には、各企業が公開している決算書を読み解かなければなりません。
ADRとして上場している企業は、英語で書かれた決算書(Form 20-Fなど)が公開されているので、英語が読めて米国の決算書の構造を理解している方であれば、それほど情報収集の難易度は高くないと言えます。
しかし、株初心者の方がいきなり英語の決算書を読むのはとても大変です。moomooアプリでは日本語でADRの情報がまとまっており、業績推移はグラフで確認できるので、効率よく情報収集できます。moomoo証券に口座開設して、無料で使えるmoomooアプリを有効活用しましょう。
ウィブル証券
ウィブル証券は、米国株だけでなくADRも1株未満の0.00001株から取引できます。例えば、TSMC ADRの価格は168.24ドルなので、1株の購入に必要な資金は日本円で約25,328円です。そのため、もっと少額資金で取引したい方は、ウィブル証券で取引しましょう。
さらに、ウィブル証券は『Moneybull(マネーブル)』というサービスが使えます。Moneybullは、証券口座内で余っている米ドルを自動的に外貨建てMMFに投資してくれる仕組みで、年間3.84%程度のリターンが期待できます。
他の証券会社にはない、ウィブル証券独自のサービスです。
通常、証券口座内の現金には利子が付かないので、米国株投資やADR投資をより効率的におこないたい方は、Moneybullが使えるウィブル証券もおすすめです。
まとめ
ADRの株価があてにならない理由や、ADRでの取引におすすめの商品などを紹介しました。ADRは株式ではなく「預託証券」であるため、日本株のADRが上がった(下がった)からといって日本株の株価も上がる(下がる)とは限りません。
ADRは、外国人に取引規制が掛かっている株式や世界的な有名企業の株式、日本株のオプション取引などに活用できます。「1株から世界中の企業に取引できる」というメリットを活かして、ポートフォリオに組み込むのもおすすめです。
ADRの取引においては、moomoo証券とウィブル証券が便利です。手数料が安く情報収集のツールも充実しているので、ADRを使った投資に興味のある方は口座開設しておきましょう。
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