かぶ1000さんに取材しました(2)
バリュー株投資をする際に注目するポイントと評価基準
ゆうと : バリュー株投資をするとき、どういった点に注目していますか?
かぶ1000さん : もっとも重視するのは「株主資本(純資産)の成長」です。純資産※9というのは、利益が積み重なることで増えていきます。そのため、去年のコロナショックのような企業の業績が大きく落ち込んだときでも持っている資産は痛みにくく、安心して投資を続けることができます。
※9 純資産とは、株主が会社に出資したお金である「資本金」や、企業が稼いだ利益の蓄積を表す「利益剰余金」などのことです。
また、業績を伸ばし続けるよりも、利益の積み重ねである株主資本を伸ばしていくほうがハードルが低く堅実です。このような理由から、株主資本が安定して増えていれば、資産バリュー株の投資対象であると思っています。また、資産バリュー株は企業が持っている資産によって、「現金タイプ」、「有価証券タイプ」、「不動産タイプ」の3種類があります。
分類 | チェックポイント | 当てはまる企業※10 |
---|---|---|
①現金タイプ | 現金 > 総負債となっているか | 丸八ホールディングス(3504)など |
②有価証券タイプ | 有価証券 > 時価総額となっているか | 岩塚製菓(2221)、昭栄薬品(3537)など |
③不動産タイプ | 時価 > 簿価となっているか | 片倉工業(3001)、三菱地所(8802)など |
※10 かぶ1000さんが公開しているポートフォリオから作成しています(2021年6月16日時点)。
①現金タイプ 「現金 > 総負債となっているか」
1つ目の現金タイプとは、「総負債(負債の合計)」より多くの「現金および預金」がある企業のことです。このような企業は資金繰りに余裕があるため、不況になっても強い傾向にあります。
<①現金タイプに当てはまる丸八ホールディングス(3504)>
(出典:2021年3月期 決算短信[PDF])
②有価証券タイプ 「有価証券 > 時価総額となっているか」
2つ目の有価証券タイプとは、「時価総額※11」より多くの「有価証券や投資有価証券」がある企業のことです。このような企業の株を買うことで、その企業の投資先を直接買うよりも割安に持っていることになります。
※11 時価総額とは、「会社の価値を表す指標」のことです。株価×発行済株式数で計算することができます。
<②有価証券タイプに当てはまる岩塚製菓(2221)>
(出典:2021年3月期 決算短信[PDF])
<岩塚製菓(2221)の時価総額>
(出典:SBI証券)
③不動産タイプ 「時価 > 簿価となっているか」
3つ目の不動産タイプとは、賃貸不動産の「簿価(期末残高)※12」より「時価(期末時価)※12」が大きい企業のことです。このような企業は古くから歴史のある会社に多い傾向にあります。
※12 賃貸不動産の簿価と時価は、有価証券報告書の「賃貸等不動産関係」に載っています。簿価は「期末残高」の金額で、時価は「期末時価」の金額です。ただし、年に1回しか公表されないので、下のデータは2020年3月期末のものになります。
<③不動産タイプに当てはまる三菱地所(8802)>
ゆうと : なるほど。資産バリュー株と一口に言っても、さまざまなタイプがあるわけですね。しかしこのように異なるタイプの株をどのように評価して、ポートフォリオを作っていますか?
かぶ1000さん : 僕はより割安な銘柄を見つけたら、入れ替えるようにしています。そのために、次の表のような指標で投資先を評価しています。
指標 | 激安 |
超割安 |
割安 |
---|---|---|---|
PER※14 | ~6倍 | 6~ 8倍 |
8~ 10倍 |
PBR※15 | ~0.3倍 | 0.3~ 0.4倍 |
0.4~ 0.5倍 |
配当利回り※16 | 5%~ | 4~ 5% |
3~ 4% |
EBITDA※17 | ~3倍 | 3~ 4倍 |
4~ 5倍 |
グレアム指数※18 | ~5倍 | 5~ 8倍 |
8~ 10倍 |
かぶ1000流 ネットネット指数※19 |
~0.5倍 | 0.5~ 0.66倍 |
0.66~ 1倍 |
※14 PERとは、「会社の利益と株価を比較して割安性を測る指標」のことです。
※15 PBRとは、「企業の持っている株主資本(純資産)から見た株価の割安度がわかる指標」のことです。
※16 配当利回りとは、「株を買った価格に対して、1年間でどれだけ配当を受け取れるかがわかる指標」のことです。
※17 EBITDAとは、「企業が持つ、本来の収益力を分析するときに役立つ指標」です。営業利益+減価償却費で計算できます。
※18 グレアム指数とは、「ベンジャミン・グレアムが提唱した、割安度を図る指標」のことです。PER×PBRで計算できます。
※19 かぶ1000流ネットネット指数とは、「時価総額を換金性が高い流動資産で割った指標」のことです。現金及び預金+受取手形及び売掛金+有価証券+投資有価証券-貸倒引当金-総負債 > 時価総額で計算できます。詳細は、「貯金40万円が株式投資で4億円~元手を1000倍に増やしたボクの投資術」でくわしく紹介されていますので、ぜひご覧ください。
このような基準で保有銘柄をランキングしています。そうすることで、次に買いたい株を見つけたとき、すぐに入れ替えができるようになるからです。さらに、こういった基準にプラスαして、「現場を見る」ことも重要だと思っています。小売業であれば店舗を見にいくこともありますし、投資する企業が持つ不動産の現地調査をすることもあります。
今まで言ってきた基準は、決算短信や有価証券報告書をベースとした情報です。こういった情報は過去のものであるため、それを補うためにも、現場を見て雰囲気を感じるという作業は絶対に必要です。両方が組み合わさることで確信につながり、株価が下がってもうろたえずに買うことができると思います。
ゆうと : 実際にかぶ1000さんのポートフォリオを見てみると、基本的にはこの3種類に分かれており、それぞれの評価基準からバランスよくポートフォリオが組み上げられています。かぶ1000さんはご自身のブログで売買理由を開示して下さっているため、バリュー投資に興味のある方は、その理由をひも解くところからはじめてみると参考になると思います。 また、私自身もよく現地調査をおこなっていますが、資料だけではわからないことが感じられるためおすすめです!
投資を検討する際に注意すべきこと
ゆうと : 投資を検討するときに、特に注意していることは何ですか?
かぶ1000さん : バイアスにかからない(偏った見方をしない)ように注意しています。やっぱり人って、自分の都合の良いように解釈したくなりますが、バリュー株はそこが少ないのが良いところだと思っています。
なぜならバリュー株は、貸借対照表(B/S)※20の実物資産が利益を出していて、それが実際に積み上がっているのが実感できるからです。逆に成長株※21は将来の成長性を見るため、どうしても偏った見方をしやすいと言えます。
※20 貸借対照表とは、「会社が事業資金をどうやって集めて、どのような形で保有をしているかを表すもの」です。
※21 成長株とは、「売上や利益の成長率が高く、今後株価の上昇が期待できる銘柄」のことです。
また、TwitterなどのSNSも、偏った見方やポジショントークの塊です。嘘を嘘と見抜けない人は、SNSを使わないほうが良いかもしれません。特に、コロナショックなどの暴落のときにバイアスにかかると、もう冷静な判断はできません。こういった危険性があるため、情報はきちんと選び取って自分で判断しましょう。
ゆうと : コロナショックのようなときは相場が大きく動くので、普段バイアスにかからないような投資家でも判断を間違う可能性があります。だからこそ、普段から自分に都合の良い解釈をしていないかどうか、注意していく必要がありますね。
投資をしてきて一番苦しかったとき
ゆうと : いままで投資をしてきて、一番苦しかったときはいつでしょうか?
かぶ1000さん : 苦しかったときはあまりない気がするけど、強いて言えば昔は自分で情報が取れなかったことが苦しかったですね。昔は有価証券報告書や決算短信を見るのもむずかしく、リアルタイムの株価も知ることもできませんでした。そういった意味で、個人投資家は大きなハンデがあったと言えます。
しかし今では、個人投資家はプロ(機関投資家)と同じくらいの情報が取れるようになりました。その一方で、プロは時価総額が小さい会社や、流動性が低い会社には投資しにくいといった売買制約があるため、個人投資家のほうが有利かなと思っています。
ただし、今は恵まれすぎていて情報が多すぎるという問題もあります。先ほど伝えたTwitterなどのSNS問題と同じように、情報をきちんと選び取って自分で判断する必要がありますね。
ゆうと : 個人投資家の最大のメリットは、プロのような売買制約がなく、小回りをきかせて自由に売買することができることです。ただし、情報があふれる時代だからこそ惑わされることも多く、投資の軸をブレさせないことが肝心です。また、TwitterをはじめとしたSNSへの注意は、以前取材させていただいた、たーちゃんさんも指摘していたポイントです。成功している2人の投資家が注意すべきと言っているため、うまく付き合っていきたいですね!
これから株式投資をはじめる方へ向けた4つのステップ
ゆうと : 最後に、これから投資をはじめる方へのアドバイスをお願いします。
- 余剰資金ではじめてみる
- 株式投資をする目的、目標を明確にする
- いろいろ試してみる
- 良き師匠をみつける
かぶ1000さん : まずは、余剰資金ではじめてみることが大事です。ただし、生活資金を使って投資をはじめると、冷静さを失ったり、自分の都合の良いように解釈しやすくなったりするので、まずは余剰資金ではじめましょう。
次に、株式投資をする目的、目標を明確にしましょう。そうすることで、どのような投資手法が自分に合っているのかが、おぼろげながらわかってきます。例えば、大きく儲けたいと思って優待株投資をおこなうのはミスマッチです。優待株投資は優待の利回りがリターンとなる投資手法なので、大きく儲けるのはむずかしいからです。このように、目的や目標を決めることで次のステップに進めます。
さらに、いろいろ試してみることで目標に合ったやり方が見えてきます。最初は、バリュー株投資や成長株投資、優待株投資など、さまざまな投資手法を試してみることで、少しずつ自分に合うものが見つけられると思います。ただし、そのためにはしっかりと自分で考えて取り入れていかないといけません。
そして、良き師匠をみつけることができるかは、ステップアップするうえでとても大きいと思います。僕の場合はベンジャミン・グレアムの「賢明なる投資家」と出会えたことで、それまで自分が考えてきたことが間違ってなかったと確信を得ることができました。
良き師をみつけるためには投資本を読んでみたり、株オフ会に参加してみたりするのが良いと思います。 このような順序でステップを歩んで、自立した投資家へと成長していって欲しいと思います。
ゆうと : この4つの順番にステップアップしていくことで、自立した投資家として成長していくことができます。なぜなら私自身もこのようなステップアップしてきたからです。そして、このなかでも特にむずかしいのは、4つ目の「良き師匠を見つける」ことです。良き師匠と出会うことで大きく飛躍することができる一方、かぶ1000さんが「ベンジャミン・グレアム」と出会うまで12年かかっていることからも、それだけ師匠を見つけるのは大変だと言えます。だからこそ、長く相場に居続けてたくさんの人と出会い、投資本などで学び続けることが肝心です。
…かぶ1000さんへの取材、いかがでしたでしょうか?最後に、ここまで記事に目を通してくださったみなさんと、この取材を承諾していただいたかぶ1000さんに感謝の意を述べて、終わりとさせていただきます。ありがとうございました!