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自己資本と他人資本はどう違う?企業分析での使い方も解説

やさしい株のはじめ方編集部担当:やさしい株のはじめ方編集部

最終更新日:2023年11月30日

自己資本と他人資本は、貸借対照表を使って企業分析をする際に、重要なポイントのひとつです。自己資本と他人資本の比率から、会社の事業構造や成長性を推測できます。

このコラムでは、自己資本や他人資本とは何なのか、どうやって企業分析で活用するのかなどを説明します。

自己資本と他人資本の違い

まずは、自己資本の説明です。自己資本とは、その名のとおり「自己資本」です。会社が自由に使える資産を表しています。具体的な中身には、会社を作る際に株主が出資したお金である「資本金」や、会社が稼いだ利益の残りである「利益剰余金」などが含まれます。このお金は返済義務がないため、自己資本をたくさん持っているほど、財務健全性は高いと考えられます。

対して他人資本とは、その名のとおり「他人資本」です。具体的な中身には、銀行からの借金である「短期借入金・長期借入金」や、投資家からの借金である「社債」などが含まれます。このお金には返済義務がある点で、自己資本とは異なります。

自己資本と他人資本の分析指標

自己資本と他人資本を比べた時に、一般的に自己資本が多ければ財務健全性高いと判断します。貸借対照表を見て、自己資本と他人資本を計算すればわかるのですが、この比率を確認するのに便利な指標があるので紹介します。その指標は、以下の2つです。

  1. 自己資本比率
  2. DEレシオ(ディーイーレシオ)

自己資本比率

自己資本比率とは、会社が持っている資産のうち、返済しなくても良いお金(=自己資本)がどれくらいあるかをチェックする指標です。一般的には、30%以上あると優良企業とみなされます。計算式は以下のとおりです。

自己資本比率の計算式

自己資本比率=自己資本÷総資産×100

自己資本比率が高いほど、自由に使えるお金がたくさんあるため、財務健全性が高いと判断できます。自己資本比率をはじめとする財務健全性の分析方法については、「財務健全性とは?」で詳しく紹介しているので、こちらも合わせてご覧ください。

なお、自己資本比率はわざわざご自分で計算する必要はなく、SBI証券で提供されている会社四季報や、マネックス証券銘柄スカウターを使えばかんたんに入手できます。

<SBI証券 会社四季報>

株価推移 (最近3年間)

(出典:SBI証券

<マネックス証券 銘柄スカウター>

自己資本比率

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

DEレシオ(ディーイーレシオ)

DEレシオとは、「Debt Equity Ratio」の略です。Debtは「負債」、Equityは「純資産」、Ratioは「割合・倍率」の意味なので、日本語では「負債資本倍率」と呼ばれています。負債(=他人資本)が自己資本の何倍にあたるかを示しており、財務健全性を調べるときに使います。計算式は下のとおりです。

DEレシオの計算式

DEレシオ=有利子負債÷自己資本

この数値が高いほど借金への依存度が高く、低いほど依存度は低くなります。目安は「1倍」で、1倍を下回ると財務健全性が高いと判断されます。より厳密にDEレシオを計算したい場合は、「ネットDEレシオ」という指標を使います。「ネット」とは、日本語に直すと「正味の」という意味です。計算式は下のとおりです。

ネットDEレシオの計算式

ネットDEレシオ=(有利子負債-現預金)÷自己資本

「ネットDEレシオ」の特長は、「DEレシオ」と違い、分子に“有利子負債から現預金を差し引いたもの”を使っている点です。手元の現金で有利子負債を返済し、残った有利子負債と自己資本を比べることで、借金に依存しすぎていないかをより厳密にチェックできます

ネットDEレシオは、マネックス証券銘柄スカウターで確認可能です。有利子負債の項目の中に『対自己資本比率』があるので、こちらをクリックすると、ネットDEレシオが載っています。

ネットDEレシオ

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

なお、銘柄スカウターでは「%」で表示されているので注意が必要です。たとえば、2019年12月は「1,262.8%」と表示されていますが、この数字を100で割れば「12.6倍」となります。ネットDEレシオで12.6倍なので、相当負債への依存度が高いとわかります。

また、2014年~2018年はマイナスになっていますが、これは「有利子負債<自己資本」となっているからです。財務健全性が高い状態なので、マイナスだからといって悪いと判断しないようにしてくださいね。

自己資本と他人資本を使った企業分析

それでは、自己資本と他人資本を使った企業分析を紹介します。これらを使った分析のゴールは、「財務健全性が高いかどうか」です。自己資本比率やネットDEレシオを使いながら考えていきましょう。

今回は、『いきなりステーキ』を全国で展開するペッパーフードサービス(3053)と、愛知県を中心に『ステーキハウスブロンコビリー』を展開するブロンコビリー(3091)の2社を、自己資本と他人資本に注目して比較していきます。

ペッパーフードサービス

まずは、自己資本比率を確認しましょう。マネックス証券銘柄スカウターで個別銘柄を検索すると、ページの上部に書かれています。

自己資本比率

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

2020年7月27日現在、自己資本比率は2.0%となっています。先ほど“40%以上あると健全”と紹介しましたが、この水準だとかなり財務健全性が損なわれているように感じますよね。さらに、貸借対照表の『項目別推移』から自己資本比率の推移を確認すると、下の図のようになっていました。

自己資本比率の推移

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

2017年から2019年にかけて急激に減っている様子がわかります。原因は、純資産の中に含まれる「利益剰余金」が減ってしまったからです。

利益剰余金

(出典:ペッパーフードサービス 2019年12月期有価証券報告書)

利益剰余金が減った主な原因は、『いきなりステーキ』の客離れやブランド競合によって、収益力が低下したためです。さらに、一部店舗を閉鎖したため、店舗の減損損失を特別損失として計上しています。以上の理由から、純利益がマイナスとなり、自己資本比率を下げる結果となりました。

純利益

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

続いて、ネットDEレシオを確認しましょう。こちらもマネックス証券銘柄スカウターの『有利子負債』でチェック可能です。有利子負債の項目の中に『対自己資本比率』があるので、こちらをクリックすればネットDEレシオが見られます。

ネットDEレシオ

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

2018年まではネットDEレシオがマイナスとなっています。これは、有利子負債よりも現金のほうが多かったからです。つまり、銀行から借金を返すように言われても、手元の現金で返済できる状態だったわけです。しかし、2019年になると1,262.8%まで上昇しています。理由はかんたんで、手元の現金が一気になくなり、有利子負債の金額が多くなってしまったからです。

手元の現金がなくなった理由は何でしょうか?その理由を探るため、キャッシュフロー計算書を確認します。

キャッシュフロー計算書

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

キャッシュフロー計算書の「2019/12」の部分を見ると、『営業活動によるキャッシュフロー(赤色)』と『投資活動によるキャッシュフロー(緑色)』がマイナスになっています。営業活動によるキャッシュフローがマイナスになった理由は、新規出店によって従業員とアルバイトの給料や店舗の家賃が増え、税引前当期純利益が減ったためです。

また、投資活動によるキャッシュフローが巨額のマイナスとなっているのは、新規出店を加速させて有形固定資産の取得額が増えたのが原因です。ペッパーフードサービスでは、2018年と2019年に新規出店を加速させ、年間で200店舗ずつ増やしました。しかし、売上高の伸びを見ると、2017年から2018年にかけての伸びと、2018年から2019年にかけての伸びが全く異なります。

売上高の成長

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

このことから、店舗の収益性が下がっているのにもかかわらず、積極的に新規出店を進めたため、自己資本が流出してしまったと考えられます。

経営が苦しくなったペッパーフードサービスは、自己資本の増強を図るために「行使価額修正条項付き新株予約権(MSワラント)」を発行しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大による資金繰り悪化が追い打ちをかけ、2020年3月25日に、「重要な後発事象(継続企業の前提に関する事項)の注記※1」が付きました。

※1 「重要な後発事象(継続企業の前提に関する事項)の注記」とは、かんたんに説明すると、“会社を経営し続けるのが困難になっている”ことを、投資家に注意喚起するためのものです。

以上から、自己資本と他人資本に注目すると、経営の苦しさをあらかじめ察知できます。投資する際は、チェックしておきたい項目ですね。

ブロンコビリー

ペッパーフードサービスと同じように、まずは自己資本比率を確認しましょう。マネックス証券銘柄スカウターで個別銘柄を検索すると、ページの上に載っています。

自己資本比率

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

2020年7月29日現在、自己資本比率は85.2%となっています。自己資本比率が“40%以上あると健全”なので、ブロンコビリーは財務健全性が非常に高い会社といえるでしょう。ここで、貸借対照表の『項目別推移』を使って、過去の自己資本比率を調べてみましょう。

自己資本比率の推移

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

ペッパーフードサービスとは対照的に、自己資本比率が上がっているのがわかりますね。下の業績推移からわかるとおり、毎年着実に利益を積み上げているため、自己資本の中の利益剰余金が積み上がっているのが理由です。

当期利益の推移

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

続いて、ネットDEレシオを確認しましょう。マネックス証券銘柄スカウターの『有利子負債』でチェック可能です。有利子負債の項目の中に『対自己資本比率』があるので、こちらをクリックすればネットDEレシオが見られます。

ネットDEレシオ

(出典:マネックス証券の銘柄スカウター)

ブロンコビリーは過去10年間ずっと、ネットDEレシオがマイナスになっています。画像の下半分を見ると、ネットDEレシオの左横に「純有利子負債」が、そこからさらに2列左に「有利子負債」の数字が載っています。有利子負債がかなり少ないため、ネットDEレシオがマイナスで推移していると考えられるのです。

以上をまとめると、ブロンコビリーはペッパーフードサービスと比べて、かなり財務健全性が高いとわかりました。

補足

「自己資本が多いと財務健全性が高い」とお伝えしましたが、これは「自己資本が多いほうが絶対的に良い」という意味ではありません。あくまで財務健全性の視点からのお話なので、違う視点から考えると、自己資本が多すぎるのは問題でもあります。むずかしいお話なので詳しくは書きませんが、会社がお金を集める際には「最適資本構成」を意識します。これは、株主や銀行だけに偏るのではなく、バランス良く、いろんな人からお金を集めようというお話です。

もう少し踏み込んでお話しすると、株主と銀行では、会社に求めるリターンが違います。なぜなら、貸したお金を回収できるリスクが異なるからです。銀行は返済順位が高いため、ほぼ確実に貸した資金を回収できます。対して株主は、返済順位が最も低いため、出資したお金を回収できないリスクがあります。このように、株主のほうが高いリスクを取っているので、会社に求めるリターンが高くなってしまうのです。

つまり、自己資本が多いほど、会社が株主に提供するリターンが高くなり、その分負担が大きくなるのです。この点で、求められるリターンが低い銀行借入をうまく使って、全体のリターンを下げたほうが良いと言えます。

他人資本が多いときのワナ

他人資本には、「短期借入金」や「長期借入金」、「社債」などが含まれます。この資金は、会社が成長するために使われるので、成長フェーズにある会社(東証グロース上場企業など)や、巨額の設備投資が必要な企業(電力会社など)は、どうしても他人資本が多くなります

このこと自体は問題ないのですが、他人資本が多いと、“収益性を測る指標”にワナが発生します。具体的には、他人資本が多い会社は、「ROAが低いのに、ROEは高くなる」現象が起きるのです。その原因を説明していきます。

まず、ROEの計算式を確認しましょう。

ROEの計算式

ROE=当期純利益÷自己資本×100

注目していただきたいのは、分母に「自己資本」を使っている点です。つまり、他人資本はこちらに含まれていません。当期純利益100億円の会社が2つあったとして、自己資本1,000億円だけで稼ぐA社と、自己資本500億円+他人資本500億円で稼ぐB社を比べると、

  • A社 : 100億円÷1,000億円×100=ROE10%
  • B社 : 100億円÷500億円×100=ROE20%

となり、B社のほうが高収益企業に見えるのです。ただし、総資産から見た収益性を調べる「ROA」を計算すると、

  • A社 : 100億円÷1,000億円×100=ROA10%
  • B社 : 100億円÷1,000億円×100=ROA10%

となり、どちらも同じ収益性となります。

ROEが高い会社は、株主から見たらとても魅力的です。ROEを使って投資判断を下すのも良いですが、電力会社や鉄道会社、テーマパークなど、資産を使って収益を生み出す会社は、補助的にROAも確認すると、「総資産を上手く使って稼げているか」が見えてきます。ROEとROAを組み合わせて、収益性を分析していきましょう。

まとめ

自己資本と他人資本の違い、企業分析での使い方を紹介しました。会社を分析する際は、貸借対照表の右側で「誰からお金を集めてきたか」を確認するとともに、自己資本比率やネットDEレシオを使って、財務健全性が高いか調べましょう。

自己資本比率やネットDEレシオは、SBI証券が提供する会社四季報マネックス証券銘柄スカウターで確認できます。ツールを使うと、自分で計算しなくても良いので、財務分析の時間を短縮できます。この機会に口座開設し、ツールを使ってサクサク企業分析をしましょう!

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やさしい株のはじめ方編集部

この記事の執筆者

やさしい株のはじめ方編集部 

FP2級や証券外務員二種、日本証券アナリスト協会検定会員補を持つ複数のメンバーが「株初心者の方に株式投資をわかりやすく理解していただく」をモットーに、記事を執筆しています。

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